Contents

ビットコイン狂騒曲

1本の論文から生まれた電子貨幣

 それは、ナカモトサトシと名乗る人物が書いた1本の論文から始まった。2008年の10月に米国で発表された9ページのその論文には、Peer to Peer形式で取り引きするインターネット電子貨幣システムについて書かれていた。
 ナカモト氏は論文を発表すると、システム開発を開始、暗号学の専門家グループにプロジェクトの存在を知らせた。2010年には開発者のコミュニティが誕生、彼らはオープンソースベースでシステムを構築し、仕組みを徐々に完成させていった。ちなみにこのナカモト氏、一部の報道で実在の人物と判明したが、自分がビットコインの考案者であることは否定している。
 最初にビットコイントランザクションが発生したのは、2010年5月21日のことである。ラザロという人物が、10,000ビットコイン(以下、BTC)で25ドルのピザを買った。それ以降、ビットコインは知る人ぞ知る電子貨幣として少しずつ知られていく。たとえば、ノルウェーのコーシュ氏は、大学生だった2009年、興味本位で5,000BTCを約2,400円で入手した。その後すっかり忘れていたのだが、相場が高騰しているニュースで思い出し、自分の持っているビットコインが数千万円相当の時価総額になっていることに驚いたという。それを元手に、彼は20代にしてマイホームを一括払いで購入した。

貨幣にしてシステム、それがビットコイン

 そもそもビットコインとは何なのか。ビットコインとは、暗号学に基づいたコードとしてだけ存在する電子貨幣である。それと同時に、オンラインでこの貨幣を送受信するための支払いシステムのことでもある。現実の貨幣にはこれをコントロールする中央銀行が存在するが、ビットコインにはそのような機関はない。トランザクションはすべてPeer to Peerで行われる。A氏がB氏にビットコインを送金するとき、それは銀行のような仲介機関を経由することなく、直接両者のコンピュータ上のサイフからサイフへ移動する。
 また、ビットコインのトランザクションは、すべてがブロックチェーンと呼ばれるオープンな台帳により開示される。とはいっても、送り主と受け取り主の情報は数字と文字の羅列で示されるため、個人情報は明らかにされない。
 そして、この点が最も重要なのだが、すべてのトランザクションはPeer to Peerで接続されているコンピュータによってチェックされる。通常は六重に検算され、正当性が確認できればトランザクション成功となる。もしビットコインが不正に作られて送金が試みられたとしても、コンピュータ相互で管理しているトランザクション履歴に不整合が生じるため不正が判明し、トランザクションは完了しない。

自力で生み出すことができる貨幣

 現実の貨幣の世界では、中央銀行しか紙幣やコインを作ることが許されていないが、ビットコインでは自ら生み出すことができる。それがビットコインの採掘と呼ばれるもので、この貨幣をユニークなものにしている特徴の一つである。
 具体的には、出題される計算問題にコンピュータで挑戦し、それを世界で最も早く解くことができれば、25BTCを入手できる。ただし、問題を解くのは容易ではない。出題される問題というのは、それまでの取引が正しいことを承認する「キー」を見つけることだ。ビットコインのトランザクションは10分ごとに1枚増えていくブロックチェーンに記述される。そして、その「キー」を使って正当性を承認しながら次のブロックチェーンページをつないでいく。この「キー」というのが、最後のページの値をもとにハッシュ関数を使って求めるものなのだが、コンピュータの演算能力を非常に要する数学問題となっている。しかも、現在の相場にして約160万円ほどの大金が一度に手に入るチャンスとあって、世界で相当数のコンピュータが参戦する。このブームに乗って、採掘者向けに専用コンピュータを販売する業者が出現しているほどなのだが、もはや個人で所有できるコンピュータの性能では太刀打ちできないという話もある。

購入するなら取引所サービスを利用する

2月下旬のビットコイン取引停止に対し、
「仮想通貨のリーマンショック」との声も。

 採掘によらずにビットコインを入手するなら、現時点では取引所サービスと呼ばれるところで購入することになる。これは、ビットコインの売り手と買い手のマッチングサイトだ。
 日本には早くから進出したマウントゴックスという法人があった。海外では、イギリスを拠点とするビットスタンプ、フィンランドのローカルビットコインズなどがある。
 取引所サービスにアカウントを作ると、サイト内に自分のウォレットが開設される。銀行でいえば口座にあたるものだ。購入するとこのウォレットの中にビットコインが入る。ウォレットは個人のPC上にも持てる。Bitcoin-QT、Multibitなどのクライアント用アプリケーションがあり、取引所サービスのウォレットからここへビットコインを移動できる。

リスクは高いが、注目に値する取り組み

 これまでビットコインは“国家に依存しない新しい概念の貨幣”として支持を広げてきた。キプロス金融危機の際には、「当てにならない自国通貨より信用できる」と、資産の逃げ場として利用された。日本でもビットコインで支払いを受ける店舗が出現している。
 しかし、注目度が高いため相場は高騰もするが、システム障害などちょっとした要因ですぐに暴落する。そのため今のところ蓄財の手段としてはリスクが高すぎるだろう。相場の上下動を楽しむぐらいの余裕がないと、ちょっと手を出しにくい貨幣である。
 また、誕生から日が浅いため何が起こるかわからない。法整備も進んでいないので、何が起こっても自己責任を求められる。その典型は、前述のマウントゴックスだ。2014年2月上旬、システム障害を理由に同社は活動を停止、その後、同社が管理していたビットコインと顧客からの預かり金を消失したとして民事再生法を申請した。(2014年3月13日現在)。もともとは全世界の取引所サービスを狙って大規模なサイバー攻撃が仕掛けられ、ビットコインが不正に抜き取られる事件が発端のようである。
 他方、世界の金融当局も、匿名性の高いビットコインは資金洗浄の温床になると警戒している。
 確かにリスクはある。それは決して低くはない。そうではあるが、これまで人類が脈々と築き上げてきた貨幣制度を、ICTならではの発想で変革しようとしている点でビットコインは注目に値する。果たしてもう一つの貨幣に育つのか。今後の動きから目が離せない。

◎参考文献:『BITCOIN BEGINNER』/SAM PATTERSON 『ビットコイン あたらしいネットビジネスの教科書』/合尾英介(いずれもkindleブック)