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<特集>IoTは何を変えるか

IoT-モノとモノ/人がネットを介して会話する

 たとえば朝、目が覚めて身を起こしたとする。すると、ベッドに搭載された圧力センサーが働いて、あなたの起床をキッチンのエアコンとコーヒーメーカー、トースターに無線で知らせる。信号を受け取った機械は自らスイッチを入れて動き始める。顔を洗ってキッチンに入った頃には、あなたは快適な空調の中で、焼きたてのトーストと香り高いコーヒーの朝食を食べ始めるのだ。洗面台で測った体重データが、クラウド上のマイページに転送されている。タブレット端末でグラフの推移を見ながら、あなたは最近の運動不足をちょっと反省する。
 まるで映画のような風景だが、最近耳にするようになった「IoT」が具現化されると、これが日常になる。IoTとはInternet of Thingsの略語で、日本語では直訳で「モノのインターネット」と呼ばれている。モノがネットワークに接続され、データがやりとりされることで新しい価値を生み出すことを意味する。このIoTは、M2M(Machineto Machine)という概念も含んでおり、冒頭のたとえ話でいうと、ベッドやエアコン、コーヒーメーカーがコミュニケーションする部分がM2Mである。モノとモノがネットワークを介して相互通信するわけだ。もともとMは「機械」を意味していたが、その定義は拡張されようとしている。

IoTを構成する3つのパート

 IoTを最初に提唱したのは、英国人のケビン・アシュトンという技術者だ。彼は、マサチューセッツ工科大学でRFIDタグやその他のセンサーを研究するオートIDセンターを共同設立した。1999年、ユビキタスセンサーを介してモノが物理的に接続されるシステムを説明するためにIoTという言葉を初めて使用した。
 IoTを実現する構成要素の観点から説明すれば、以下の3つになる。

①データ収集を行うパート
モノにハードウェアで実装。具体的にはセンサー、モバイル用CPU、デバイス、無線通信装置など。
②データ転送を行うパート
ネットワークで実装。具体的には無線、SIMカード、IPネットワークなど。
③データ分析を行うパート
ビジネスインテリジェンスソフトウェアなどで実装。具体的には、ビジネスプロセス支援、データ分析やビジネスパフォーマンス管理、意思決定支援など。

 このように3ステップで抽出された“答え”が、モノに対して働くなら命令として、人に対して働くなら情報として提供される。

すでに日本でも始まっている取り組み

身の回りのあらゆるものがインターネットにつながるIoT。  IoTは日本にとって目新しいコンセプトというわけではない。
 一番身近なのは、自動車メーカーの点検サービスの世界だろう。一例を挙げると、トヨタはハイブリッドカーで「ハイブリッドスマートiチェック」を行っている。車体の内部では、たくさんのセンサーやコンピューターが働いている。そこにタブレット端末の診断システムでアクセスし、その状態をチェックするものだ。
 コマツのKOMTRAXもその一例。同社の建設機械にはGPSが搭載されていて、独自開発の機械稼働管理システムにより、場所、エンジン稼動の有無、燃料残量、稼動時間が事務所から把握できる。
 冒頭のたとえ話に出た体重計も、実際にある。オムロンヘルスケアは血圧計、体重計、体温計に通信装置を搭載した製品を販売しており、データをPCやスマートフォン上のアプリに自動転送できるようになっている。ユーザーはデータの推移を見ることで、より積極的に健康や体力の向上策を考えられるというわけだ。

海外では斬新なIoTが出現

 一方、海外でも斬新なIoT事例が出現していて、可能性の高さを感じさせる。
 書籍「ソーシャルマシン」の提案で印象的だったのは、車椅子と消毒薬容器の組み合わせによる課題解決である。車椅子は病院が管理に困っているものの一つ。車輪を持って動き回るために、いつの間にかなくなるのである。すぐに思い付くのはGPSを付けることだが、室内ではうまく動作せず、車椅子では電力供給も難しい。そこで、病院内にまんべんなく配備されている消毒薬容器に目を付けた。容器にRFIDリーダー機能を付加し、車椅子にはRFIDタグを取り付け、消毒薬容器に車椅子を探させるのである。著者はこの仕組みに「受動的トラッキングシステム」という名前をつけ、RFIDタグを付けられるならどんなものでも探せると断言していた。

IoTは何を変えるのか

 世の中がIoT化していくことで、変わることは何だろうか。
 まずは、モノの設計やデザインだ。IoTはユーザーエクスペリエンスを向上させる。たとえば、エアコンが他の部屋のエアコンと協調して、快適でしかも最大限節電できる室温を学習可能だとしたら、ユーザーはうれしくないだろうか。すべてのモノの設計者、デザイナーは今後、製品を差別化するために、IoTを前提に仕事の変革が迫られることになるだろう。
 IoTはまた新しいビジネスを生む。モノがセンサーや無線機器を搭載することで可視化されるデータの使い道は、無限大の可能性を秘めている。たとえば自転車の車輪の回転速度、ユーザーのペダルを踏む力、加速度、タイヤの空気圧や温度などといったデータが明らかになることで、サードパーティー事業者がまったく別の角度から別のビジネスを思いつくかもしれない。
 そしてIoTは人々の生活を変える。コーヒーが冷めたことを感知した陶製コップが、コーヒーメーカーに“もう一杯入れろ”と命令を出す。それが快適か過剰かは別として、IoTはそこまでできることを示唆している。
 しかし、まだまだ課題はある。既存のモノにデータ収集するパートをどう搭載するか。実際にCPUを積むなら、その余地をどう捻出するのか。あるいはモノには通信機能だけ持たせてスマートフォンやクラウドの処理能力を借りるのか。通信機能として何を採用するのか。IPネットワークを採用するならアドレスは足りるのか。電力供給をどうするか。技術標準の問題もある。オープンに複数のモノが相互通信しようと思えばそこには何か “よりどころ”が必要だが、その点はまだ規定も推奨もないようだ。ここから先は、これらの壁を一つひとつ切り崩していくことが歩みとなっていくだろう。

  • ◎参考文献:「ソーシャルマシン M2MからIoTへ つながりが生む新ビジネス」(ピーター・センメルハック著、角川EPUB選書)「Designing Multi-Device Experiences AN ECOSYSTEM APPROACH TO USER EXPERIENCES ACROSS DEVICES」(Michal Levin著、O'REILLY)「THE SILENT INTELLIGENCE THE INTERNET OF THINGS」(DANIEL KELLMEREIT、DANIEL OBODOVSKI著、kindleブック)