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ICT NOW  「インダストリー4.0」は好機か危機か?

インダストリー4.0とは何か?

発信源はドイツだった。それも出発は政府の政策提言であるという。容易に見つからないはずである。そもそもは同国が2010年に定めた「ハイテク戦略2020」に盛り込まれた製造業再活性化策の一つ。インダストリー4.0というフレーズは2011年に生まれた。ドイツ技術科学アカデミーがその普及のために力を尽くしており、このアカデミーの会長がドイツSAPの元社長のヘンニヒ・カガーマン氏であるという。

インダストリー4.0、意味するところは第四次産業革命である。18世紀に英国で蒸気機関が発明されたのを第一次、20世紀初めに米国で電気エネルギーが発明されたのを第二次、20世紀後半に日本でコンピュータによる自動化製造が開始されたのを第三次とし、第四次の今回は「考える工場」「つながる工場」を実現するという。

なぜドイツがインダストリー4.0か。モノづくり大国でありながら、これまでドイツの企業は世界的な競争において敗れ去る場面が少なくなかった。その原因は戦いが企業という"個"に閉じているからであるとし、これからは企業および産官学の枠を超えオール・ドイツで臨むという強い決意が世界を揺らしているのである。

「考える工場」の意味するもの

それでは、「考える工場」「つながる工場」の具体的な中身は何なのか。大きく2つある。1つはマスカスタマイゼーション、もう1つは生産の標準化である。

マスカスタマイゼーションとは、マスプロダクション(大量生産)でありながら、顧客のカスタマイズ要望に広範囲で応じるというもの。センサーやソフトウェアを使いこなし、また仕入れ先や生産工程まで自在に組み替えながら、テーラーメイド的な生産を実現するという。マスカスタマイゼーションの考え方をもってすれば、顧客は「金色にしてほしい」「よく汗をかく背中部分は速乾素材にしてほしい」「ヒップ部分をカバーする丈にしてほしい」「胸部分にポケットをつけてほしい」といった細かい好みをいえるようになる。そして、工場はそれらの要望をデータとして当たり前のように取り込み、さしたる面倒もなく自動的にラインを組み替えながら生産していくのだ。顧客とすれば、単にカタログに載った商品を選ぶのではなく、色や形、素材にまで踏み込んで自分の好みを反映できるようになるというわけだ。

もう一方の生産の標準化とは、パーツのみならず、システムやその内部のインターフェース、流通させる情報のフォーマットなどを含めて、標準化の範囲を著しく高めることを意味している。これにより、生産の拡大や代替といった変化対応が容易になる。つまり、A社の工場が手いっぱいになっても、B社の工場で苦もなく残りを引き受けられる。ある意味、生産をどんどんモジュール型化するということだ。PCはパーツの規格が明確に決まっているため、どのメーカーのものを組み合わせても製品になるモノの代表だが、あらゆるものをそのように作っていこうというのだ。

工場内もどんどんつながる。IoT(Internet of Things)の概念が浸透し、各設備がセンサーを備え、同じ通信規格の下で情報をやりとりするために、「今、この中でどの顧客向けの、どの製品が、どの工程まで進んでいるか」といったことを工場自体が把握可能になる。そのため、ラインの途中である生産途上品を抜いたとしても、ただちにそれ以降のプロセスに情報が伝わって変化対応し、混乱は生じない。逆もまた真なりで、ラインに急ぎの注文を割り込ませたとしても、その情報を知った各プロセスが自ら組み立て順序変えや部品変更を行って完成させる。まさに「考える工場」といわれる所以である。

米国もIoTでリードしようと対抗

このようなドイツの動きに、もう一つのモノづくり大国、米国も黙っていない。こちらはIoTをコンセプトに、強力な企業連合を構成し、その覇権を握ろうとしている。その代表的な存在がインダストリー・インターネット・コンソーシアムだ。2014年3月に誕生した。GE、IBM、インテル、シスコシステムズ、AT&Tの5社が発起企業だが、2015年8月現在すでに世界的な組織に発展しており、ドイツ、日本、インドなどの企業も参加、そのメンバーは200社以上に拡大している。このコンソーシアムが目指しているのは、産業分野でのIoT活用推進だ。そのゴールを、産業の新しいユースケース創造と実世界で利用できるアプリケーションの試作を通じたイノベーションの推進、リファレンス・アーキテクチャや相互運用のために必要なフレームワークの定義・開発などとしている。

ここから透けて見えるのは、米国でいち早くIoT関連の技術標準を確立し、それをもって世界の覇権を握ろうという意図だ。

新興国も虎視眈々と狙っている

実は、この一大ムーブメントに沸き立っているのは、ドイツや米国といったモノづくり大国の"古豪"ばかりではない。インドや中国といった新興国も、第四次産業革命の主役に躍り出ることを虎視眈々と狙っている。

インド政府は、海外企業の生産拠点誘致策や全国レベルでの光通信網敷設策を推進する一方で、2020年までに150億ドル規模のIoT関連企業を育成しようという「IoTポリシー」を発表、その中で大学における専門カリキュラム開設や起業支援を記している。

インドが「IoTポリシー」なら、中国は「中国製造2025」だ。同国はロボットの導入が本格化し始めており、中国政府は2025年までに製造業を知能化させる計画作りを進めている。

キーワードは連合化。一方、日本は?

ドイツにしろ、米国にしろ、潮流の確かなキーワードは連合化だ。一企業や一政府では成しえない革命を、"三本の矢作戦"で成し遂げる。そのようなメッセージがひしひしと伝わってくる。

そうした中で日本はどうするのだろうか。日本では、企業グループ単位での連合化はすでに実現されているといえるだろう。まっさきに頭に思い浮かぶのは自動車メーカーである。系列企業はもちろんのこと、一次請け、二次請けなどの業者で構成されるサプライチェーン一体となって供給拠点である海外に進出し、緊密に協力しあって生産を図る。それは世界に冠たる強者のモノづくりである。ただ、企業グループの枠を超えた相互運用性という視点はないかもしれない。また、パーツを組み合わせて作るモジュール型生産よりも、モジュールに手を入れ現場で調整しながら作る擦り合わせ型生産を得意としてきた日本のモノづくり風土の違いもある。さらにインターネットでつながりすぎることによる技術流出懸念もあり、インダストリー4.0をどう受け止めるか、まだその論調はまとまっていないようだ。

しかし、一つ確かなことは、これは新たな変化の訪れだということである。危機に感じられるときこそ、実は突破口を開く好機であるという。この変化にICTが貢献できることは多そうだ。ここが日本の知恵の見せどころ、と前向きに挑んでいくのはいかがだろうか。

産業革命の歴史とその主導国