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ICT NOW 「No UI」はICTの究極の進化か?

画面というUIへの依存が進む

どんどんモバイル端末が生活に入りこんでいる。総務省の平成26年通信利用動向調査によると、すでに30代以下の年齢階層ではスマートフォンが自宅のパソコンを上回って、最も利用率が高い端末となった(図1)。

工業製品の世界にも、"画面化"の波は広がっている。家電量販店に行ってみればよくわかる。冷蔵庫に電子レンジ、液晶画面で操作する製品が増えている。自動車ですらそうだ。テスラモーターズの次世代電気自動車には、ダッシュボードにパソコン並みに大きな液晶画面が装備されており、運転状況をモニタリングするためのアプリが搭載されているという。

UI依存は本末転倒なのでは?

果たして、この画面依存の潮流は正しいのか。今、ここに警鐘をならしているのが米国のユーザーエクスペリエンスデザイナーで「The Best Interface is No Interface」(邦訳タイトル「さよなら、インタフェース脱「画面」の思考法)の筆者ゴールデン・クリシュナ氏だ。インタフェースに頼りすぎるのは、本末転倒になりかねないというのである。たとえば、スマートフォン一つで車のドアやエアコンなどいろいろな操作ができるというアプリケーション。便利なようで、ドアを開けるのに、スマートフォンを取り出す→起動→アプリを探す→起動→ドアオープンの機能を探す→ドアオープンボタンを押す、という一連の操作が必要だ。手動ならドアノブを引くだけだというのに。同氏はスマートフォン利用を否定しているわけではない。Bluetoothなどスマートフォンの持つ機能をうまく活用すれば、ユーザーがスマートフォンを操作しなくてもドアオープンは可能なのではないか。本当にユーザーフレンドリーな製品/サービス設計をめざそうではないかと問うている。

本来の目的を思い出そう

「なぜなぜ分析」というものがある。トヨタの大野耐一氏が開発したアイデア発想法で、なぜを5回繰り返して問題の本質を探るというものだ。

傘をさす。なぜ傘をさすのか。雨に濡れないため。なぜ雨に濡れてはいけないか。服が濡れるから。なぜ服が濡れてはいけないのか。風邪をひく危険があるから。なぜ風邪をひいてはいけないのか。風邪は万病のもとだから。といった具合に分析を進めていき、傘に変わる防雨対策を考える。衣料の防水透湿性素材などはその成果の一つといえるだろう。濡れないことが目的ならば、水を通さない服を着ればいいのだ。つまり、開発で重要なのは本来の目的をしっかり把握すること。それが「The Best Interface is No Interface」の意味するところだ。

その流れからいけば、日本で普及している"おサイフケータイ"機能は「No UI」の精神にのっとっている。お金を払うためにすることは端末をポートにかざすことだけだ。しかし、まだかざすという行為は残っている。これがポケットに入れたままセキュアに支払い完了できれば、まさに完璧といえるだろう。

話題の「No UI」先行事例

同書では、いくつかの「No UI」先行事例が紹介されていた。

たとえば、Lockitronという、スマートフォンで世界中のどこからでも家のドアロックを可能にするアプリケーション。事前の作業として、既存のドアキー部分にかぶせて設置できるデバイスを取りつけておく。スマートフォン側にはドアオープン、ドアクローズという2つのスライドボタンしかない。デバイスはセンサーを搭載していて、誰かがドアをノックするとスマートフォンに通知が届く。(https://www.youtube.com/watch?v=D1L3o88GKew

VIPER SMARTSTARTという車操作スマートフォンアプリケーションは、車を足で軽く蹴ればトランクが開くという機能を実現した(https://www.viper.com/smartstart/)。そのためにはリアバンパーの下に2つのオプションセンサーを取り付ける必要があるのだが、このアプリケーションの初期購入者47%がこの機能を選択したそうだ。トランクの前にいるということは、何か収納したい荷物を手に抱えているということ。カーユーザーの行動をしっかり観察したからこそ生まれた機能だ。

これはスマートフォンアプリケーションではないが、人間の介在なしにすぐれた働きをする製品の例にReebok Checklightがあった。これはリーボックとベンチャー企業が共同開発したもので、見た目はシンプルなふちなし帽なのだが、加速度測定機能と姿勢制御機能を組み込んだ基盤が埋め込まれている。これで頭部が受ける衝撃を測定でき、その強度を後頭部のLEDランプが示す。(http://www.reebok.com/us/checklight/Z85846.html)アメリカンフットボール選手など頭部に強い衝撃を受ける危険のあるユーザーには福音の新製品だ。スマートフォンが登場したおかげで、人は移動しながら誰かと交流したり、新しい洋服を購入したり、セミナーの申し込みをするなど、手のひらの上で多くのことができるようになった。時間を有効に活用できるという点で、これは真にイノベーションといえる。しかし、画面を見て操作するという行為にはマイナス面もある。"歩きスマホ"に起因する接触事故、転落事故はその代表例だ。

製品/サービス開発において、当該課題を解決するのにユーザーインタフェースとしての画面提供はほんとうに最善なのか。日本はまだこのような「No UI」を目指した製品/サービスの事例は数少ない。しかし、これは国や地域を問わない普遍的な課題で、潜在ニーズは高いと思われる。なぜなぜ分析までいかずとも、ユーザーエクスペリエンス、つまり、人間の体験が本質的にどうあればさらなるブレークスルーにつながるか、一度立ち止まって考える機会を持ってもよさそうだ。