Contents

ビッグデータ活用への期待は大きい

―ICT業界で幅広く注目を集めているビッグデータ活用ですが、御社のビジネスにおいてはいかがでしょうか。

伊部 : 当社の場合、当社自身がビッグデータをベースにビジネスを展開するケースと、当社の顧客が展開するビッグデータプロジェクトをサポートするケース、2つの立場があるのですが、どちらも盛り上がりを実感しますね。
詳しくは申し上げられませんが(笑)、需要予測にこのテクノロジーが生きるのではないかと考えています。POSシステムに蓄積された過去の膨大な実績情報や店舗の立地情報、天候情報、周辺のイベント情報などを組み合わせて精度の高い予測値を算出し、それを製造業、運輸業、小売業など関係企業で共有して壮大なデマンドチェーンマネジメントを構築する。ビッグデータをベースにすれば不可能ではないでしょう。

伊藤 : 実は私は10年前、システムエンジニアとしてサプライチェーンマネジメントシステムの構築に携わっていたのですが、そのころはまだ需要計画の裏付けとなるデータの取得に苦労していて、数値入力は営業マンの“勘と希望”がベースでした。その頃に比べると隔世の感がありますね。

伊部 : またビッグデータには、前述の実績情報のようなストックデータと、ストリーミングデータやセンサーデータなどのフローデータという2種類がありますが、これからはフローデータの活用も進んでいくでしょうね。機械学習できる人工知能を使って高度なシステム制御を行うといったことも現実味を帯びてきました。そうなれば、人間はもっと人間にしかできないことに特化できるようになるでしょう。未知の領域を次々開拓できそうで、ビッグデータ活用には期待が大きいですね。

一方、データの扱いには懸念すべき点もある

伊部 : しかし、その一方で少し気がかりなこともあります。取り扱うビッグデータの種類によっては、その活用に社会の理解を得られないかもしれないということです。
先日、あるテレビ番組を観たのですが、携帯電話やスマートフォンの位置情報を使って、東日本大震災の後に人々がどのように動いたかを可視化したイラストレーションが出ていました。東北地方から人々がどのように避難したか、逆に外部から東北地方へ人々がどのように支援に入ったかがマクロの視点で把握できるのです。あのような分析は今までなかったので非常に興味深いと思いました。
ただ、位置情報が時系列でとらえられているため、見る人が見ると「あれはあの人じゃないの?」と推測できる場合もあると思いました。真実ではないにしても、憶測が広がることは止められないため、データを提供する側としては留意が必要だなと思います。

―先日は、利用者の利用履歴を匿名処理して第三者提供するというサービスも出てきて、物議を醸しました。

伊部 : ニュースを見て「あ、これは何か世間から反応があるだろうな」と思いました。サービス利用履歴は個人を特定する情報ではありませんが、やはりこれも、見る人が見れば誰かわかる可能性があります。利用履歴は個人情報ではないと断言できないかもしれません。

伊藤 : まさにご指摘のとおりで、個人情報というと、住所や電話番号など直接個人が特定できる情報と思われており、そういった情報でなければ個人情報ではない、だからあらためて同意を得る必要がないし、どのように活用してもいい、と短絡的に結論づけられているところがあります。しかし、それは少し都合のいいように個人情報の範囲を狭く考えすぎではないかと思います。利用履歴の一件で、個人情報保護法の根幹である「個人情報」の範囲や解釈がバラバラで、あいまいなままビジネスが進められていることがはっきりしましたね。

伊部 : やはりそうでしたか。

―そこは企業としては気になるところでしょうか。

伊部 : 企業イメージを大きく損ないますから。法的な対応ということであれば、これも決して好ましいことではありませんが、ある一定のルールの上で戦うことができます。しかし、イメージ低下という現象はどうしようもありません。ましてや今日はインターネット社会で、起こった出来事はあっという間に伝わってしまうのでくれぐれも気をつけなければと思います。

伊藤 : コンプライアンスは法令遵守と和訳されますが、今日は単に法律を守るというだけではなく、大きな意味でビジネス倫理が問われる時代になってきたと思います。
ビッグデータ関連でいえば、こんな報告があります。総務省が2013年6月に発表したもので、個人情報を含むより広い概念としてパーソナルデータというものについて、その適正な利用・流通の促進に向けて開催された研究会の結果なのですが、そこにはパーソナルデータには3種類あると分類されています。
1つめは比較的プライバシー性が高くない、氏名や本人が自分の意思で公開した情報を指す「一般パーソナルデータ」、2つめはプライバシー性の高い電話帳情報、位置情報、通信履歴情報など「慎重な取り扱いが求められるデータ」、3つめはプライバシー性が極めて高い、思想、信条および宗教に関する情報などといった「センシティブデータ」です。

―伊部部長が懸念されたデータは、このうちの2つめに該当しますね。

伊藤 : またデータを活用するときは、そのデータを取得した際の文脈に沿った使い方をするか、そうでないかによっても取り扱いが違ってきます。
どういうことかといいますと、ポイントカードを利用すれば、購買情報が買い物をした会社に蓄積されて販促に使われることはカードユーザーも容易に想像がつきます。文脈に沿った使い方ですよね。
しかし、その購買情報がまったく別の会社に対して別の用途のために渡るとしたら、それはカードユーザーに対して、あらためて、明確に、個別に、確実に同意を取らなければなりません。ユーザーがあらかじめ予想できない使い方だからです。

伊部 : なるほど。おっしゃるとおりですね。

伊藤 : 何より重要なことは、「ユーザーのプライバシーに配慮しているか?」という視点です。個人情報ではないといえたとしても、プライバシー侵害にあたる可能性があります。これについては明確な法律はないものの、個人情報保護法制定以前からプライバシー侵害は違法とする判例は数多く出ており、これに抵触するかどうかといった配慮も求められます。

萎縮してはつまらない、知恵を絞って前進しよう

―こうした中、企業はどのようにビッグデータ活用を進めていけばいいでしょうか。

伊藤 : 慎重な取り扱いが求められるデータを扱う際は、ユーザーと綿密にコミュニケーションを図ることです。将来どのようなことにでも使えるようにと曖昧な表現で了解を取るようなことはせず、説明の画面を一枚はさむとユーザーに逃げられるからと省略するようなこともしない。そもそも、そのような方法で取得したデータでは胸を張ってビジネスできません。データを使いたいときは、そのたび面倒がることなく「こういう目的で利用させてください」と了解を取っていくのが原則です。

伊部 : 企業としては手続きが増えてしまいますが、これを逆手に取って差別化するという方向性はありそうですね。
たとえば、コンビニなどではデータ利用に関して画面タッチで可否を判断してもらうというのはどうでしょうか。そうすれば、その日の気分によってYESとNOを選択できますし、ユーザーのプライバシーに配慮するコンビニという企業イメージも打ち出せます。

伊藤 : それはいいアイデアですね。ビッグデータ活用は大きな可能性を秘めたテクノロジー領域で、一部のデータがセンシティブだからといって、ICT企業がみな萎縮して取り組みを止めてしまうのはつまらないと思っています。日本車が世界で一番厳しい排ガス基準を自ら設定して世界市場で成功したように、ユーザーの懸念をビジネスチャンスととらえてサービス創造するというのは、これからのシステムインテグレータの発想だと思います。

伊部 : それで思い出しましたが、以前いたバイオサイエンス部門では、まさに個人情報のかたまりといえるDNA情報をベースにしたシステム開発を進めていたのですが、そこでは検体を匿名化処理するソフトウェアを開発して特許を取得しました。つまりは、こういうことなんでしょうね。

伊藤 : 実際にビッグデータを扱って、経験を積み重ねていくことによって、どのようなデータを扱うときはどういう手続きが必要かという知見が蓄積されていきます。そうなれば御社の顧客企業からビッグデータ活用に関して相談があっても、実践的な観点からのコンサルティングを提供できます。

―それはまさにMKIのめざしておられる道ではないでしょうか。

伊部 : そのとおりですね。今日は伊藤先生とお話しして、いろいろ懸念点を整理できました。ありがとうございます。

―伊藤弁護士、伊部部長、本日はありがとうございました。
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 パートナー弁護士  伊藤 雅浩氏

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
パートナー弁護士 伊藤 雅浩氏
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)にて、ERPパッケージソフト、サプライチェーンマネジメントシステムの導入企画、設計その他、開発業務に従事。弁護士登録後、コンサルティング、システム構築経験を活かし、現場の実態を理解して、システム開発に関する一連のリーガル業務、ベンチャー(主にIT・ネット企業)に関するリーガル業務、新規事業立ち上げに関するリーガル業務など、実用的な提案・作業に従事する。

三井情報株式会社 コンサルティング部  部長  伊部 辰郎

三井情報株式会社
コンサルティング部 部長 伊部 辰郎
1988年、三井情報開発(現三井情報株式会社)入社。金融機関向けソフトウェアや情報共有システム等の開発に従事。2000年からバイオサイエンス本部にて研究開発業務を担当。2005年、総合研究所へ異動しコンサルティング業務に従事。2013年4月、コンサルティング部部長に就任、現在に至る。