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思想と理念に培われた、財務分析ツール「CASTER」

地方銀行の先にいる全国の中小企業を支えたい。

思想と理念に培われた、財務分析ツール「CASTER」

 

財務分析のデファクトスタンダードとして、170以上の金融機関への導入実績を誇る、三井情報の自社プロダクト「CASTER」。開発に秘められた思いから、製品としての独自性、強さの秘訣までを、歴史とともに振り返る。

「CASTER」普及に長年携わっている、向井俊男に話を聞いた。

金融業界を支える「CASTER」の誕生

「CASTER」の歴史を紐解くと、その誕生は今から30年以上前に遡る。

 

1977年、三井情報開発株式会社(現:三井情報株式会社)総合研究所・主任研究員だった伊藤良一が、独自の分析である「BRAINS」を発表。「CASTER」は、その理論に基づいた財務会計の入力・分析ツールとして誕生した。

 

当時の金融機関は、勘定系システムを除いては、ほとんどの業務を手作業に頼っていた。そこで、業務の一部である財務の分野を機械化しようとしたのが始まりだった。

 

伊藤良一の理論の発表から4年後の1981年。金融機関としては初めて、横浜銀行が「CASTER」を導入したのを皮切りに、地方銀行の導入が相次いだ。それは、財務分析における精度の高さと、そして、省庁の検査・考査に対応した使い勝手の良さが理由だった。

当時、検査に際して必要な決算書のデータはすべて手作業で入力していたが、それらの検査は抜き打ちで行われるので、労力や人件費も相当のものだった。しかし「CASTER」の誕生によって銀行の行員はそれらの作業から解放され、本来の業務に集中できるようになった。言うなれば、30年前に「働き方改革」を推奨していたわけである。

「CASTER」の危機と一人の男の存在

順調に導入件数を増やしていた「CASTER」は、1994年、優れたOCR技術を有する株式会社東芝とともに「CASTER OCR決算書システム」を開発。販売を開始した。金融機関の自己査定制度の開始と「2000年問題」への懸念によって、効率的な入力システムへのニーズが高まっている最中だった。

ところが、完成したシステムはバグも多く、あるべきはずの処理が欠けていた。また、これまでのシステムに慣れた人には非常に使いにくい出来だった。結局、改修ではどうにもならず、プログラムを一から作り直すこととなった。

そんな苦境の時代を救ったのが、増田卓史という一人の開発者である。増田が、「CASTER・OCR決算書入力システム」を再開発し、その後、現在まで20数年に亘り、金融機関に広く利用されるシステムとしたのである。

この男、コミュニケーションが極端に下手だった。おかしいと思ったことは、立場を問わず容赦なく指摘する。それゆえに、上からも下からも疎まれていた。しかし、製品開発においては、超一流だった。

打合せは、4、5時間続くことも常だった。「普通の発想じゃだめだ」と、いつも夢物語の理想を語ることから始まった。そんな彼の根底にあったのは、「本質的に必要な物を作る」という一点だった。「金融機関が融資を検討するときに、どのようなものが必要か」、その問いに対して真摯に向き合い、本来あるべきものを提供しようとした。

通常、開発者は、世の中で求められているものを作ろうとする。しかし、世の中の動きに応じていると、あっという間に流れは変わってしまう。だからこそ、本質を見抜く目が大事なのだ。
「顧客はニーズを知らない」、それが増田の言い分だった。顧客の思想の先を行き、真に求められているものは何かを探る。事実、増田の手がけたシステムは、説明がなくとも、見た瞬間にその良さがわかるものばかりだった。

チームとは衝突することも多かった増田だったが、実際にはその影響力は絶大だった。増田が去って何年も経った今もなお、「CASTER」に携わるメンバーは「自分たちは増田さんのDNAを受け継いでいる」と、会話の端々で口にするのだから。

正しく評価をするために。金融機関の啓蒙も業務の一つ

「CASTERは電卓のようなもの。それらの数字をどう見るかは、教育の問題だ」。
20数年来、「CASTER」の普及に携わってきた向井は言う。「CASTER」は融資を行うための財務分析ツールにすぎない。それゆえに、指標の見方が伴わなければ、十分に活かされることはない。「CASTER」の価値を理解し活用してもらうために、金融機関を啓蒙するのも、重要な任務の一つである。
その役割を担ってきたのが、向井だ。各地方銀行を回って「CASTER」の活用方法を伝授し、ある時は新人教育のカリキュラムをも担当する。これまでに、向井の研修を受けて大きく業績を伸ばした支店長は少なくない。

「CASTER」の活用とは何か。例えば、「CASTER」には、「粉飾チェック」や「経常収支比率分析」等、独自の分析機能があるが、その結果をただ鵜呑みにしてはならない。
「CASTER」の「粉飾チェック」等の結果は、的を射たものであると評価されるが、財務データの登録の仕方によっても分析の結果は変るものであり、一過性の特異な財務状況により異常が検知される場合もあり得るものである。そこで、「CASTER」独自の分析結果(コメント等)を元にバランスシートを読み解く力が必要となるものであるし、「CASTER」は、バランスシートを読み解くその切っ掛けを与えてくれるものなのである。しかし、「信用格付」(統計に基づくスコアリング)をもとにした審査を行えば、その分析結果はどの銀行でも大同小異のものとなり、必ずや“体力勝負”になり、地方銀行は、メガバンクに勝つことはできない。地方銀行は「機械的に審査するとこうなるが、よく見たら支援すべき可能性がある」という判断ができるよう、見る目を養うことが必要なのだ。

「CASTER」の導入先である地方銀行の責務は、企業への融資を通じてビジネスをサポートすることにある。「危ないから融資しない」という風潮に陥れば、助かる企業も救われず、また一方で、基準が甘すぎても共倒れしてしまうのである。

開発チームを支える使命感

「CASTER」の目的は、正しく財務データを入力し、そのデータに基づき、正しい分析結果を出力、その継続性を担保することであり、単なる効率化を目指すものではない。他ベンダーの財務入力・分析システムとは、根本的な設計思想が異なっている。

「思想と理念を持て。」
それは、増田が常々言い、向井をはじめとするチームメンバーが受け継いできたことである。

儲け方に捉われていては、ビジネスはうまくいかない。「CASTER」が30年以上受け入れられてきたのは、そこに「正しい分析データを提示する」と言う思想があり、烏滸がましいからもしれないが「日本の中小企業を支える」と言う理念があったからである。

日本の法人の99%は中小企業であり、それを支えるのが「CASTER」の導入先である地方銀行だ。「CASTER」にトラブルが発生すると、銀行の融資業務が止まり、企業が融資を受けられなくなる。それは、資金繰りの苦しい企業にとっては、命取りになる。反対に、地方銀行が正しく融資し、地域経済が活性化すれば、日本経済は良くなる。その判断を担うのが「CASTER」なのだ。日本経済の発展において「CASTER」を動かし続けることは、我々の社会的な責任なのである。

ホストコンピュータから始まり、会計制度に対応してバージョンアップを重ねてきた「CASTER」。2018年には、最新版の「CASTER X」が登場した。

すでに、金融業界のインフラと化した「CASTER」にとって、アップデートは容易なことではない。アップデートは必要だが、システムの変更は金融機関に大きな影響を与えるからである。しかし、金融業界を支えるシステムとして、その思想と理念を受け継ぎ、社会的責務を全うしなければならない。

世の中のために、技術を活かす。
そこには、増田や向井が守ってきた「CASTER」の理念が息づいている。

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