量子コンピュータ(量子ビット)の実現方法は?

2022/02/04
R&D部 研究開発室

(本稿に先立って「量子コンピュータとは?」をお読みいただくと理解が深まります。)

はじめに

ここ数年、各社による量子コンピュータの開発や取り組みが盛んになってきました。量子コンピュータは量子力学の原理(量子の性質)を利用して計算を行うコンピュータですが、これは一体どのように実現するのでしょうか。

量子コンピュータは、物理的な構成要素であり情報の最小単位でもある「量子ビット」の状態を操作(制御)することで計算を行います。実用的な量子コンピュータを実現するためには、解ける問題の計算規模や解の精度に影響する「量子ビット」を物理的にどう実現するかが、極めて重要になります。今回は、「量子ビット」の実現方法についてお話ししたいと思います。

「ビット」と「量子ビット」

量子ビットは従来コンピュータの「ビット」に相当します。従来コンピュータは、CPUの中にあるトランジスタという電気的なスイッチを使用して計算を行います。スイッチには、電流を流すONの状態と電流を流さないOFFの状態があり、このONとOFFを2進数の「0」か「1」の数字に置き換え、情報の最小単位「ビット」として計算処理を行います。

 

量子ビットも「ビット」と同様に、何らかの物理的な素子の状態を使って0、1の情報を表現します。ビットと異なる点として量子ビットは、「重ね合わせ」と「量子もつれ」と呼ばれる二つの性質(量子性)を持ち、量子コンピュータはこの2つの量子の性質を利用した計算手法(アルゴリズム)に基づいて計算を行うことで、従来コンピュータの計算処理と比較して計算ステップ数を大幅に減らすことができると言われています。しかし量子性を持ち安定的に状態を維持することが可能な量子ビットを作ることは非常に難しく、現在も世界中で量子ビットに関する研究開発が行われています。

量子ビットの実現方式

量子ビットを実現する方式は様々ありますが、現在最も研究が進んでいる方式として、次の3つがあります。

(1)超電導回路方式

超低温に冷却して電気抵抗(電気の流れ難さ)をゼロにした超伝導状態の電子回路(超伝導回路)のチップにより量子ビットを実現する方式です。複数の方式がありますが、超伝導回路に流れる電流の向きや回路上の電荷を蓄える金属電極の電荷(正・負)の状態(電子がどちらの電極にいるかや数)などを「0」と「1」の情報として表現します。

【長所】集積化が可能。
【短所】ノイズに弱く量子ビットが不安定、冷凍機が必要であり装置が大きくなる。

■超電導回路方式イメージ

(2)イオントラップ方式

 磁場(磁気の力が作用した空間)により、空中に浮かしたイオン(+や-の電荷を帯びた原子)を量子ビットとして実現する方式です。イオン上の1個の電子に着目し、その電子が特定の2つの軌道(位置)のうち、どちらにいるかで「0」と「1」の情報として表現します。

【長所】量子ビットの状態は安定している。
【短所】量子ビットの状態操作、スケールアップが難しい。

 

■イオントラップ方式イメージ

(3)光方式

光源から放出した光子を量子ビットとする方式です。光子は、空間を波のように一定の方向に振動しながら進みます。光子の振動の向きは様々ですが、特定の振動方向の光子を「0」と「1」の情報として表現します。

 

【長所】量子ビットは常温で動作するため扱い易い。
【短所】処理の過程で光子が消失するなどのエラーが発生するケースがある。

 

■光方式イメージ

さいごに

現時点で、ベンダ各社から実験的にサービス提供されている量子コンピュータは、超電導回路方式とイオントラップ方式ですが、信頼性、スケーラビリティなど実用的な観点で課題があります。最終的にどの方式が主流になるかはまだ分かりません。

三井情報では、今後も量子コンピュータの開発動向を注視し、量子コンピュータの活用シーンの探索、検討および技術検証に取り組みます。

 

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