Beyond 2020
デジタル変革時代を勝ち抜くヒント

vol.2
デジタル変革は一日にしてならず
ビジネス技術活用の両輪で  
デジタル変革共創加速させる

デジタル化の波は、あらゆる産業に抜本的な変革を迫る。その中で持続的成長を目指すためには、デジタルトランスフォーメーションに積極的に取り組み、新たな顧客体験や次世代につながるビジネスモデルを構築することが欠かせない。これを支援するため、三井情報は「デジタルトランスフォーメーションセンター」と「ソリューションナレッジセンター」という2つの組織を新設。技術とナレッジの融合による新たな価値創出に取り組んでいる。(編集・監修:日経BP総研 フェロー 桔梗原 富夫)

デジタル技術に関する人と知見を集約した2つの組織

三井情報株式会社 執行役員 デジタルトランスフォーメーションセンター センター長 宮下 藏太氏
三井情報株式会社
執行役員
デジタルトランスフォーメーションセンター
センター長
宮下 藏太
 クラウド、モバイル、AIやIoTに代表されるデジタル技術は凄まじい勢いで進化を続けている。この波を捉え、新規事業や新しいビジネスモデルの創出を目指すデジタルトランスフォーメーションの機運が高まっている。多くの企業が“守り”の経営から、データの活用による“攻め”の経営への方針転換を模索しているのだ。

 この活動を支援するため、三井情報(以下、MKI)は事業のシフトチェンジを加速。ERPやネットワークの導入・保守を中心とした「守りのIT」といわれるSoR(Systems of Record)事業に加え、50年間で培ってきた豊富なナレッジとノウハウに基づく「ICT総合技術力」を武器に、将来の事業戦略に向けた価値創出の立案・遂行をサポートする「攻めのIT」といわれるSoE(Systems of Engagement)事業に力を入れ両輪で顧客のビジネスを支えている。

 MKIは親会社である三井物産の基幹システムの構築・運用・保守を長年にわたり手掛けてきた。国内有数の総合商社である三井物産は、流通、製造、エネルギー、農業など業容が幅広い。「IoTという言葉が誕生する以前から、現場のモノ・ヒト・コトのデータを駆使した業務革新や障害に対する予兆検知などに取り組んできました」と同社の宮下 藏太氏は述べる。

 しかし、デジタル技術に精通したメンバーが部署ごとに分散していたため、これまでは案件ごとにアサインしてチームを編成する形だった。そこで複数部門にまたがっていたメンバー・知見を集約する組織再編を断行。2016年4月に「ソリューションセンター」(以下、EDGE。現在の「ソリューションナレッジセンター」)、2017年4月に「デジタルトランスフォーメーションセンター」(以下、DXC)を新設した。

三井情報株式会社 執行役員 ソリューションナレッジセンター センター長 河島 真司氏
三井情報株式会社
執行役員
ソリューションナレッジセンター
センター長
河島 真司
 デジタルトランスフォーメーションは技術だけで実現できるものではない。まず何を目指すのか。ゴールを明確にし、そこに至るシナリオを策定することが重要である。テクノロジーはそのための実現手段だ。すなわち「ビジネス」と「技術の活用」という2つの戦略が欠かせない。そのために2つの組織を新設したわけだ。

 EDGEは主にビジネス戦略の企画・策定、その実行に向けたアプローチ手法や最適なパートナーの選定などを通じ、変革の大きな青写真を描く。DXCはそのために必要となるテクノロジーやソリューションを検証・提供する。

 「ただし、すべてをMKI単独で対応できるとは限りません。大切なことはお客様に対してどのような価値を提供できるか。そこでEDGEとDXCは緊密に連携するとともに、強みを持つ外部のパートナーとも柔軟に連携・協業する『先進・共創』によって、価値提供の最大化を図ります」と同社の河島 真司氏は語る。

パートナーとの共創によるソリューション開発を推進

 それでは、2つの組織は具体的にどのような役割を担うのか。

 まずEDGEは社会環境やニーズの変化を捉え、従来の常識を超えた新たな価値創出のビジョンとシナリオを企画・策定する。MKIのナレッジを活用することに加え、外部のパートナーの知見や技術を柔軟に取り入れ、ビジネスの仕組みを劇的に変えるビジネスモデル革新をリードする。ブロックチェーン活用、金融サービスエンゲージメント、カスタマエンゲージメントなどデジタル化を伴う新たな価値創出にも先行的に着手している。

 ビジョンを実現するための課題は何か。その解決に向けて何が必要か。顧客視点で捉え、最適なアプローチ手法を考えていく。「お客様が直面する課題の解決はもちろん、数年先を見据えた将来のビジネスモデルやエコシステム構築シナリオを描く。作り上げたサービスやビジネスモデルをさらにスケールアップさせ、より大きな価値創出を図るPDCAを継続的に行います」と河島氏は話す。創薬シミュレーションを例に挙げると、従来はスーパーコンピューターを利用していた解析をMKIナレッジ+パブリッククラウド活用で代替実現した。MKIのバイオサイエンス部隊の持つ解析およびシミュレーションナレッジとEDGEが推進するテクノロジー活用ナレッジを融合させた課題解決モデルである。

 その実現に必要なテクノロジーやソリューションを検証・提供するのがDXCの役割だ。DXCは先端デジタルテクノロジーに関する研究開発を担うR&D部と、データアナリティクスに関する現場実装部隊であるIoT技術部で構成される(図1)。「これまでMKIが培ってきたデジタルテクノロジーの研究開発を軸に、お客様とのワークショップ・そこから始まる実証実験(PoC/プルーフオブコンセプト)を通じ、新たなビジネス創出に貢献します」(宮下氏)。  既に実戦配備されているソリューションも数多い。その1つが、クラウド型エネルギーマネジメントサービス「GeM2」である。これはルーターやAI制御のエッジコンピューティング機能をワンボックス化した「MKI Intelligent Gateway」を含む「MKI IoT基盤」をベースにしたサービス(図2)。製造設備の稼働状況や生産プロセスに関するデータをリアルタイムに把握・回収するSCADAソフトウエア「TOPCIM」を活用することで、商業施設の空調制御やメガソーラー事業者向けの太陽光発電監視などのIoTサービスを提供している。  「AI技術に関しては自社での研究開発に加え、昨今躍進目覚ましいAIベンチャーであるGRIDとパートナーシップを組み、ディープラーニングや機械学習技術の精度向上に取り組んでいます。また、三井物産が資本提携しているシリコンバレーを中心に活躍する複数のIoTサービス企業と連携し、産業データの可視化や分析・制御も進めています」と話す宮下氏。空調制御サービスは日本全国のシネマコンプレックス事業者の約9割の施設で、太陽光発電監視サービスは200超の太陽光発電所で採用されているという。

 機械学習アルゴリズムをベースにした高性能分析エンジンをクラウドサービスで提供する「MKI分析予測基盤」の実需も増えつつある。汎用性が高く、関連する説明変数(元データ)をシステムに投入するだけで高速な分析予測が可能だという。市況商品の変動予測やマーケットの需要予測のほか、企業における経費支出動向予測などに活用されている。

EDGEとDXCの連携で博報堂と共創事業を立ち上げ

 EDGEとDXCが連携することで、ビジネスを革新し、市場をリードする差別化戦略が加速する。博報堂と共に取り組む先進・共創事業はその好例だ。博報堂がこれまで培ってきた生活者の洞察力を基にしたマーケティング・商品企画の機能などを、MKIの技術とナレッジを組み合わせることで、新たなビジネスモデルの創出を進めている。

 共創の一例としては、顧客企業に寄り添うサブスクリプションビジネスの実現が挙げられる。「所有から利用へ変化しつつある生活者の消費行動をMKIが提供するサブスクリプションプラットフォームで実現し、博報堂と共にお客様企業に提供できる環境にあります」と河島氏は説明する。

 また、画一的な商品やサービスの提供および今までのスピード感での上市では、ライフスタイルや価値観の多様化が進む生活者の心をタイムリーに捉えることは難しい。「MKIのデジタルプラットフォームを活用することで博報堂と共に、生活者の欲しているものや今後のトレンドとなりうるものを他社に先がけてキャッチ、圧倒的なスピード感で商品企画から開発まで行えるいわゆるサプライチェーン全体のサービス化(Supply Chain As a Service)の実現に向けて動き出しています」(河島氏)。

 先進・共創事業を強化するための研究開発や人材育成にも積極的に取り組んでいる。例えば、DXCのR&D部では「先進技術動向調査」を定期的に実施。注力技術分野を毎回10個ずつピックアップし、その研究開発に予算と人を割いている。強化学習による「ロボットの動作ルール獲得アルゴリズム」は、こうした研究開発による成果の1つだ。現実世界を再現したシミュレーション環境で学習させることで、より短時間かつ効率的なルールの獲得が可能になるという。

 人材育成については、社内に「MKIアカデミー」を設立。AI技術の基礎となるニューラルネットワークの講義、ディープラーニング実習などを通じて、高度AI人材の育成に力を入れている。これに加え、EDGEでは技術とビジネスの視点を併せ持つ人材育成を促進。DXCではデータサイエンティストやコンサルタントの拡充を進めている。「データ分析技術については、DXC独自の教育カリキュラムを組んで人材育成に取り組んでいます」と宮下氏は話す。

 今後もMKIはEDGEとDXCによる両輪の取り組みを軸に、業種・業界の枠組みを超えたパートナーとの「先進・共創」を推進し、顧客のデジタルトランスフォーメーションを強力にサポートしていく考えだ。
取材後記
デジタルトランスフォーメーションを推進するには、「ビジネス」と「技術の活用」の2つの戦略が重要になる。 デジタル技術はあくまで手段にすぎず、それ自体の導入が目的化すると失敗する。その点、MKIの「EDGE」と「DXC」の2つのセンターは企業にとって頼もしい援軍になるだろう。2人の執行役員をそれぞれのセンター長に据えていることからもMKIの本気度が伝わってくる。今後さらにどのような成功事例が出てくるか楽しみである(桔梗原)。
お問い合わせ
三井情報株式会社 E-mail:press@ml.mki.co.jp