Beyond 2020
デジタル変革時代を勝ち抜くヒント

vol.3
クラウド・バイ・デフォルトが見据える未来
クラウド戦略ビジネス戦略に通ず
ICT再定義価値創造支援

オンプレミスからクラウドへ──。この流れは大きな潮流となって、企業のICT環境全体に広がりを見せている。これを支援するため、三井情報はクラウドの価値を最大限に引き出す技術とサービスの開発に力を入れている。ネットワークに強みを持つITインフラから業務を支えるアプリケーションまで、ICT環境の設計・構築・運用・保守を数多く手掛けてきた実績とナレッジが強みだ。その視座は足元を見つめつつ、トレンドの先にも焦点を合わせている。(編集・監修:日経BP総研 フェロー 桔梗原 富夫)

ネットワークを含めたITインフラの構築・運用で豊富な実績

三井情報株式会社 執行役員 ソリューション技術グループ グループ長 辰巳 英策氏
三井情報株式会社
執行役員
ソリューション技術グループ
グループ長
辰巳 英策
 政府は2018年6月、政府系情報システムの方向性として「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出した。既にクラウドは優先度の高い選択肢となったといえるだろう。今後もクラウドの積極的な利活用によるハイブリッドクラウド化やマルチクラウド化が進んでいくはずだ。

 クラウド戦略を推し進める上で最も重要なことは何か。それはICT全体のグランドデザインを描くこと。何をどう変革し、どのような価値創出を目指すのか。その中でクラウドをどのように活用するかを定義する必要がある。

 三井情報(以下、MKI)では、この支援に向けた準備を進めてきたという。「親会社である三井物産の基幹系システムをはじめ、多くのお客様のビジネスを支えるシステムの設計・構築・運用を長年にわたり手掛け、その中でネットワークと音声インフラを中心とした『ITインフラ』および業務を支える『アプリケーション』の両方のナレッジを培ってきました。これをベースに、幅広い業種のお客様のクラウドシフトを支援しています」と話すのは同社の辰巳 英策氏だ。

 まずITインフラについては、大手通信キャリアが提供するWi-Fiサービス、楽天生命パーク宮城などのスタジアムWi-Fi環境の構築も手掛けたという。 東中野にあるMKI IDEA Lab.(アイデアラボ)内には、無線LAN端末などの疑似が可能なトラフィックジェネレーター環境があり、仕様上ではわからない製品の特長や性能を見える化する評価・検証など、Wi-Fi技術に力を入れている。
三井情報株式会社 ソリューション技術グループ 次世代基盤システム開発部 部長 山本 篤氏
三井情報株式会社
ソリューション技術グループ
次世代基盤システム開発部
部長
山本 篤
 また、VMwareをはじめとするサーバーやストレージの仮想化基盤を数多く構築・運用している。近年注目が高まっているHCI(ハイパーコンバージド インフラストラクチャ)も黎明期から社内検証を進めてきた。「インフラをシンプル化するHCIのメリットを最大限に引き出す構築自動化ツールなどを開発・提供しています」と同社の山本 篤氏は話す。

 社内の様々なシステムや遠隔拠点とつなぐネットワーク領域にも大きな強みを持っている。30年以上前から世界的なネットワーク機器ベンダーとパートナー契約を結び、現在もシスコシステムズ、フォーティネット社などと緊密なパートナー関係を構築している。「マルチベンダーの立場から、お客様視点で最適な製品を組み合わせ、性能とコストをベストマッチさせたソリューションを提供できます」と辰巳氏は強みを述べる。

 ネットワーク仮想化技術として注目が高まっているSDNの研究と技術力強化にも積極的に取り組んでいる。「データセンター内のネットワークを仮想化するSDN技術に早くから取り組み、現在はオンプレミスやプライベートクラウドの仮想化基盤をHCIで構築し、パブリッククラウドとの接続をSD-WANで実現する、ハイブリッドクラウド化も支援できます」と山本氏は話す。

 ネットワーク機器の機能を仮想化する「NFV(Network Functions Virtualization)」の研究と活用にも早くから着手。国内有数の自治体情報セキュリティクラウドも構築した実績がある。「サーバーやストレージの柔軟なリソースの割り当て、SDNによるソフトウエア制御可能なネットワークとセキュリティ機能を提供する統合仮想化基盤を実現しています」(山本氏)。

 加えて、MKIは音声インフラの構築・運用も多く手掛けている。音声インフラは企業のコミュニケーションを支える重要な基盤の1つ。CRMとの連携によるコンタクトセンターなど、アプリ、音声、ネットワーク技術を組み合わせたソリューション構築実績も豊富だ。コンタクトセンターの構築実績は500社を超える。

SaaSの付加価値を高めるエコソリューションを提供

三井情報株式会社 ソリューション技術グループ エマージングソリューション第二部 部長 斉藤 健太氏
三井情報株式会社
ソリューション技術グループ
エマージングソリューション第二部
部長
斉藤 健太
 一方のアプリケーションについては、パッケージの提供やインテグレーション、スクラッチ開発などを通じて、企業の多様なニーズに対応してきた。導入コンサルティングから導入後の運用定着、活用支援までトータルにサポートする。「ここで培った技術やナレッジを軸に、近年は『作る』から『つなぐ』ビジネスにシフトチェンジしています」と同社の斉藤 健太氏は語る。クラウド事業者が提供するSaaSの導入支援実績は1000社超に上るという。

 MKIのSaaSビジネスの強みは、その付加価値を高める「エコソリューション」を提供できる点だ。「業務アプリケーションの開発・構築・保守運用を多数手掛けた経験から、お客様がどのような課題を抱え、何を解決したいかを深く理解しています。SaaSを導入するだけでなく、その活用と運用、管理まで見据えた付加価値の提供に努めています」と斉藤氏は説明する。クラウド型コンテンツ管理基盤「Box」の導入・運用管理を支援する「MKI Box管理者支援ツール」、Boxへのデータ移行をトータルサポートする「MKI Boxデータ移行サービス」、Boxの運用負荷を大幅に軽減する「楽オペ for Box」などはその好例だ(図)。
 もちろん、複数のSaaSを組み合わせたエコソリューションも提供可能だ。クラウドプラットフォーム「Salesforce(セールスフォース)」と電子署名プラットフォーム「DocuSign(ドキュサイン)」、そしてBoxを組み合わせたエコソリューションはその1つ。DocuSignで署名したファイルをBoxに保存すると、Salesforceと連動し、申請・承認のワークフローを自動化する。

 さらに次世代の技術要素としてAI技術やオープンソースにも着目。その研究とビジネス実装にも力を入れ、エコソリューションの高度化を目指している。

 最近ではクラウド型IT運用管理プラットフォームの世界的リーディングカンパニーである「ServiceNow(サービスナウ)」とパートナーシップを締結した。「SaaS連携によるエコソリューションをServiceNowで管理することで、IT運用プロセスの自動化が加速します。これを軸に、日本企業の商習慣に精通しているMKIの経験とナレッジを生かし、働き方改革と生産性向上を支援していきます」(斉藤氏)。

クラウドベースのプラットフォーム化を支援

 MKIが有するITインフラ/アプリケーションの技術とナレッジは「クラウド」というキーワードのもと、その融合を深めている。オンプレミスITインフラはIaaSやPaaSに移行し、パッケージ利用やスクラッチ開発がメインだった業務アプリケーションはSaaSやPaaSの利用が加速している。互いの着地点がクラウドというわけだ。

 加えて、IaaS/PaaSについては、「Microsoft Azure」と、そのオンプレミス製品である「Microsoft Azure Stack」を適切に組み合わせ、ハイブリッドクラウドプラットフォームとしても提供している。「特にオンプレミス環境の特徴とパブリッククラウドの機能性を併せ持つAzure Stackに関する専門的な知識や運用監視のナレッジは世界有数と自負しています」(辰巳氏)。

 ITインフラ/アプリケーションの強みを継承しつつ、クラウドベースのプラットフォーム化を支援する。MKIではそのための組織変革、人材の交流・育成にも力を入れている。企業の枠を超え、パートナー企業との連携も強化している。

 「例えば、ITインフラ/アプリケーションの技術とナレッジに、実績のある基幹システムの構築・運用ノウハウを組み合わせると、企業インフラすべてを包括するエコソリューションの提供が可能になります。コンタクトセンターの対応履歴データをSalesforceで取り込み、AIで顧客情報を分析。潜在的なニーズや予兆を把握し、これをSAP S/4HANAと連携させることで、受発注処理までシームレスに自動化できる。そういう世界観を実現していきたい」と辰巳氏は前を向く。

 この実現につながる具体的なソリューションも既に提供している。英Arm社のエンタープライズ・カスタマーデータプラットフォーム「Arm Treasure Data eCDP」を活用し、同社と開発を進める保険業界向けのカスタマーエンゲージメントソリューションはその1つだ。コンタクトセンターに連絡してきた顧客に紐付くデータを統合・分析することでライフステージを可視化し、その顧客に最適なプロモーションやキャンペーンの情報をモニターに表示。オペレーターはその情報に基づき提案を行うことで、カスタマーエクスペリエンスを向上させ、ビジネス機会の拡大につなげることができる。

 企業インフラのクラウドシフトは今後ますます加速していく。ICTの再定義は避けて通れない。MKIは長年にわたり培ったITインフラ/アプリケーションの技術とナレッジを生かして、クラウドベースの企業インフラのプラットフォーム化とその利活用による新たな価値創造を支援し、顧客のビジネスの発展に貢献していく。
取材後記
システムインテグレータはその生い立ちから、ネットワーク構築、ITインフラ構築、アプリケーション開発と、それぞれ得意領域が分かれる。 MKIの規模ですべての分野を一貫して提供できるプレーヤーはほとんどいない。ハイブリッドクラウド化やマルチクラウド化が加速し、システム開発の重心が「作る」から「つなぐ」に移るなかで、MKIの強みはさらに生きてくるのではないだろうか。(桔梗原)
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三井情報株式会社 E-mail:press@ml.mki.co.jp