Beyond 2020
デジタル変革時代を勝ち抜くヒント

vol.4
SoR×SoEによる価値創造へ
開発・運用標準化
人材育成強力に推進
「信頼」を柱に真のパートナーシップを築く

デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス変革に取り組む企業が増えつつある。しかしDXは最新技術を導入して終わりではない。システムを支える「SoR(Systems of Record)」、顧客価値を高める「SoE(Systems of Engagement)」の両面から、継続的に業務効率化と価値創造を行っていく必要がある。こうした観点から、三井情報は開発・運用の標準化や自動化、組織再編による構造改革を進めるとともに、SoR並びにSoEの両輪で技術力強化に向けた人材育成にも積極的に取り組んでいる。同社が目指すのは、DX時代のフルアウトソースに対応する「真のパートナー」だ。(編集・監修:日経BP総研 フェロー 桔梗原 富夫)

「フロント」「ミドル」「バック」の3階層体制を実現

三井情報株式会社 技術管掌 取締役執行役員 人見 秀之氏
三井情報株式会社
技術管掌
取締役執行役員
人見 秀之
 ビジネスを支えるシステムが複雑化する一方、顧客価値を高めるデジタルサービスが企業の差別化戦略としてより重要になっている。業務を支えるシステムの信頼と安定を堅持しつつ、新たなことにチャレンジする
──
。企業のICT戦略には難しいかじ取りが求められている。

 このニーズと期待に応えるため、三井情報(以下、MKI)はソリューションのデリバリ体制と開発体制、そして運用体制も含めた大きな見直しを進めている。

 具体的には、ソリューションをデリバリする「フロント」部門と、ソリューション開発・サービス設計を担う「バック」部門を別々の階層組織に定義し直した。互いの役割を明確にし、各々の機動力・専門性を高めるのが狙いだ。

 従来は効率を追求し、デリバリとソリューション開発・サービス設計を同一部門で対応してきたが、「目先のデリバリでリソースが一杯になると、ソリューション開発・サービス設計に注力できません。また、目先のデリバリに必要な技術だけを追いかける弊害がありました。これを改めることで、バック側はデリバリの状況に左右されずに、新たなソリューション・サービスを継続的に開発できる体制を目指しています。一方、フロント部門もデリバリの標準化、自動化を進めたことで、品質面が向上され、従来以上に高い生産性、スピーディーな対応も可能になりました」と技術管掌を務める取締役執行役員の人見 秀之氏は述べる。

 さらに運用を担う「ミドル」部門を加え、3階層の組織体制にする。「お客様ごとに対応していた保守・運用サービスは徹底的に標準化・自動化を推進し『オペレーションサービス部』に集約します。社内の運用要員、子会社のMKIテクノロジーズの運用要員もここに集約し、連結ベースで当社グループの保守・運用サービスの標準化・高度化を加速し、DX時代のフルアウトソースに対応していきます」と人見氏は続ける。

三井情報株式会社 取締役執行役員 技術統括部 部長 加藤 幸久氏
三井情報株式会社
取締役執行役員
技術統括部
部長
加藤 幸久
 既に障害の監視・管理にITILベースのチケット管理(※)の仕組みを導入し、監視系からの自動連係も進めている。またシステムのログ分析などにAIを活用し、予兆保全に生かす取り組みを始めたほか、システムのセキュリティ監視やヘルプデスクにおけるAI活用の検証も進めている。「お客様のシステム運用品質が均質化し、障害やトラブルが発生した際にも迅速かつ的確に対応できるようになるでしょう」と技術統括部 部長を務める取締役執行役員の加藤 幸久氏は期待を込める。
顧客から受け取った問い合わせやクレーム、関連する履歴やインシデントなどを「チケット」と呼ばれる単位で管理すること
 これは人材活用にも大きなメリットがある。既にインフラ系/アプリケーション系の技術者の融合などを進めているが、標準化と省力化が進めば、組織内の人的リソースをより柔軟に有効活用できるからだ。DXをはじめとする戦略的分野に、より多くの人と投資を割り当てられる。

 「これを推進力にして、運用も見据えた開発の最適化を進めるDevOpsを加速していきます。また、強みであるネットワーク系の技術力を生かし、アプリケーションの利用状況やセキュリティインシデントに応じ最適な通信経路やシステム変更を俊敏に実施するSDIの動的制御も実現しました。最終的にはSoRとSoEを包含したICTインフラの構築および運用のフルアウトソーシングに対応できる体制を築いていきます」と加藤氏は語る(図1)。

顧客視点で開発・運用のリスク管理と品質管理を徹底

 組織体制の再編に加え、リスク管理と品質管理の強化にも取り組んでいる。システムが複雑化していけば、潜在的なリスクの発見が困難になるからだ。

 実際、プロジェクトの失敗要因の多くは上流工程に潜んでいる。「リスクの予兆を早期に捉えることが大切です。そのために引き合い時点からPMのトップクラス人材がリスク分析にあたる『プロジェクト審査制度』を実践しています」と加藤氏は話す。リスク要因が見つかれば、直ちに改善策を講じリスクをしっかり管理していく。これにより、プロジェクトの実行精度を高めているという。

 プロジェクト審査でチェックと改善支援を行うことで、若手PMも安心してプロジェクトにチャレンジでき、スキルトランスファーも進む。プロジェクト審査制度は後進の育成という面でも大きな役割を果たしているわけだ。

 さらに技術部門の全社員を対象に、失敗プロジェクトをケーススタディとするワークショップを実施。プロジェクト審査のフレームワークも社内のナレッジポータルで公開し、リスク管理と品質管理の“感度”を高めるようにしている。

 リスク管理/品質管理強化策の一環として、保守運用フェーズのCS(顧客満足度)調査も制度化している。「システムは作って終わりではなく、保守運用を含めた高品質なサービスを継続的に提供することが求められます。お客様の評価に真摯に耳を傾け、保守運用のさらなる品質向上を図り、我々が狙うフルアウトソーサとしての『信頼』の向上につなげていきます」と人見氏は話す。

基礎教育から“とんがり人材”の育成まで幅広く支援

 こうした高品質なICTソリューション/サービスを提供する上で、欠かせないアセットが「人材」である。社員一人ひとりの技術力を高め、それを組織力強化につなげていくため、高度IT人材の育成を目的とした教育カリキュラムを「MKIアカデミー」として体系化(図2)。技術力の「全体の底上げ」と価値作りをリードする「とんがり人材の育成」という両面から推進している。  「MKIアカデミーのカリキュラムには、共創による価値づくりやデザインシンキングの方法論など、MKIがこれまでの経験で培った独自メソッドも盛り込んでいます」(加藤氏)

 まず基礎教育ではコンピュータの基礎技術・基礎理論からプログラミング、ネットワーキング、セキュリティ、データサイエンスなど幅広い分野の知識・スキル習得を図り、実戦力と応用力を養う。

 ここにはPMやアーキテクト、コンサルタントなどを育成する専門コースも用意されている。この一環として、注力技術者育成制度を整備。10名弱の人材を選抜し、2年間、専門分野の技術学習に専念させる。「専門分野を履修した“とんがり人材”がプロジェクトに入り、付加価値づくりやプロジェクト全体の技術力、品質の向上を促す。そういう好循環を生み出すのが狙いです」と加藤氏は話す。

 基礎教育、専門教育を通して力を入れているのがデータ分析研修だ。今年度も技術部門全員を対象に実施している。ビジネスのデジタル化が進む中、データの重要性がますます高まっている。“とんがり人材”とともに、データから価値を生むデータサイエンティストの育成と拡充を進めている。

 技術レベルを客観的な評価指標で診断する仕組みも整えた。基礎技術力のスキル診断には世界共通のアセスメントツール「GAIT」を、応用技術力のスキル診断にはITSSをベースとした技術力診断を活用する。技術レベルはベーシックからプリンシパルまで5段階ある。技術者の認定制度も整備し技術力向上を促す。

 MKIアカデミーと並行して、システムの構築力とデザイン力を養う「開発技術部」も新設する。同部はソリューション開発に伴うプログラミング作業を一手に引き受ける部署。「MKIアカデミーの座学と並行して、主に入社2年目までの新入社員は、とにかくモノづくりの実践をやってもらいます。従来の新入社員はほかの技術者が作った設計書やプログラムを見て覚えることが中心でしたが、何も無いところから数多くのモノづくりを実践することで、単にプログラミング技術だけでなく、システムの標準化や構築力、デザイン力や新たなアイデアを出す力など『技術者として考える力』を身に付けさせ、従来以上に早く・大きく活躍できることを期待しています」と人見氏は狙いを語る。

 パートナー戦略も見直しを図った。技術系の役務パートナーとの関係は単なる受発注の関係を超え、より相互信頼をベースとした深い関係へと深化させている。これに加え、技術と事業の両輪で連携するパートナー戦略を強化。マイクロソフト、SAP、シスコシステムズ、デルテクノロジーズなど世界の先進テクノロジーを牽引するグローバルICTベンダーとのエコシステムを構築、さらに海外も含めたクラウドサービスやデータ分析などのスタートアップとの連携を強化し、アイデアを素早く形にしていく。

 東京・東中野オフィスにある先端技術センター(ATC)がその活動拠点になる。ATCには多様なベンダーのハードウエア、ソフトウエアを組み合わせた技術検証環境MKI IDEA Lab.(アイデアラボ)を構えている。パートナー企業や顧客とともに、ここでコラボレーションを進め、新しい価値の創出につながる新技術の実効性や有用性を日々検証している。

 こうした取り組みのすべては、顧客にとっての真のパートナーになるためだ。今後もMKIはSoR×SoEの実践で培ったICT技術力を強みに、AIやIoT、クラウド、ビッグデータなどの活用によるDXを推進し、顧客事業変革や新たなビジネス創出を強力に支援していく考えだ。
取材後記
IoTやAI、クラウド、モバイルなど最新のデジタル技術を活用したシステムが増加するなかで、開発と運用の高度化が進んでいる。SoEのシステムでは、アジャイル開発やDevOpsも求められる。それに対応する組織体制をどうするか、高度なスキルを持ったIT人材をどう育成するかは、SIベンダーにとって重要なテーマだ。その点で、MKIの取り組みは注目に値する。特に、人材育成策として打ち出している数々のユニークな施策の成果がどう表れるか、注視していきたい。(桔梗原)
お問い合わせ
三井情報株式会社 E-mail:press@ml.mki.co.jp