データ活用でプロスポーツクラブの
収益を向上させるスポーツDX事例とは
三井情報株式会社
デジタルトランスフォーメーションセンター
産業ソリューション営業部 第二営業室
マネージャー
久利生 大輔氏
では、同社の具体的なDXサポート事例について見ていこう。
まず、中核となるのが10年以上の歴史を持つ電力・製造業向けのDX(産業IoT)だ。
産業IoTでは、
- 設備・センサー側のデータ収集・蓄積基盤の構築
- データの可視化と分析の実施
- ニーズに合わせた解析への対応
といった3フェーズを進めていくことになる。同社では自社技術に加え、数多くのIoT・AIのテクノロジーパートナーと連携し、エッジからクラウド環境でのデータ基盤構築およびデータ分析支援まで一気通貫でサービスを提供。久利生氏が言うところの、産業向けDXの必須要素である「現場知識を有するメンバーを巻き込んだ体制構築と分析高度化の支援」を実現している。
その事例の一つに、メキシコの火力発電所や北海道のバイオマス発電所を始め、国内外の発電所・工場に展開している「デジタルツイン構築」がある。発電機などの設備やセンサーから収集したデータをOSIsoftのデータ管理ソフトウエア「PI System」で収集・保管・可視化する。「クラウドプラットフォームに、『Amazon Web Services』や『Microsoft Azure』を使用することで高い拡張性、早期構築、遠隔監視を実現し、設備制御・省エネに貢献しています」(久利生氏)。
また、自社開発の空調制御のAIを搭載したゲートウェイ「MKI Intelligent Gateway」を使った独自のエネルギーマネジメントサービス「GeM2」や、自社SCADAソフトウエア「TOPCIM」をコアテクノロジーとした太陽光発電監視サービスでは、累積で約1000サイトに提供。日本全国のシネマコンプレックスや大型商業施設においても広く採用されている。
その他、自社の研究開発に加え、18年に成長目覚ましいAIベンチャーのGRID(グリッド)、20年には時系列データ可視化・分析に強みを持つSeeq(シーク)※や、AIの民主化をリードするDataRobot(データロボット)との販売代理店契約を締結するなど、パートナーシップの構築にも注力。電力・製造業における発電計画の最適化や予知保全に向けた障害要因分析の効率化などを実現している。
もう一つ、同社のDXサポート事業の中で今、注目を集めているのがプロスポーツチーム向けファンエンゲージメント支援サービス、いわゆる「スポーツDX」だ。スポーツDXと聞くと試合中の選手のプレイデータ分析などをイメージするが、同社が提供するのはスポーツチームを運営するクラブ向けのDXである。
三井情報では、Jリーグの「ジュビロ磐田」に対し、チーム公式アプリを提供し、サポーターのスタジアムへの新規・リピート来場の促進を目的とした施策実施を支援。データ活用によるマーケティングの実施や効果の可視化などにより、サポーターとクラブのつながりであるファンエンゲージメントの向上に貢献している。
さらに20年10月からは、コロナ禍による収容人数などの制限を受け、クラブとクラブを支えるクラブパートナーをデジタルでつなぎ、双方のマーケティングをサポートするDX支援を行っている。
クラブは、クラブパートナーと共創したキャンペーンやイベントをデジタルで実現し、マーケティング施策の効果測定などを提供する。スタジアムなどの試合会場でマーケティング施策を実施する場合は、会場に設置したIoTカメラで得たデータをAIによる画像解析につなげ、リアルでの観戦体験も把握が可能だ。クラブは、サポーターの行動履歴やキャンペーン参加履歴から分析した来場パターンをスポンサーシップのオプションにすることで、クラブパートナーへの付加価値の提案が可能になる。
「COVID-19の影響を受けるクラブに加え、消費者との接点が減り従来のマーケティング活動が困難な状況にあるクラブパートナーにとっても、新たな価値創出につながるサービスとして支持をいただいています」と久利生氏。
21年にはプロ野球や、Bリーグのチームへの展開も視野に入れているという。
プロスポーツクラブによる、「スポーツの持つ価値」「クラブの活動」「地域に根差した活動」を多くの人に伝え、ファン・サポーターを継続的に拡大していくことを目的としたファンエンゲージメントのプラットフォームを提供
エンドツーエンドの支援で
DX人材育成にも貢献
「コンサルティングからデータの収集・可視化・解析、自社基幹システムとの連携・運用に至るまで、エンドツーエンドの支援のニーズは一層の高まりを見せています」と森谷氏は指摘。こうした要請に広く対応すべく、DXアドバイザリー事業領域もさらに拡大していく構えだ。
久利生氏は、企業内の組織横断的なDXをサポートすることで、「クライアント企業のDX人材育成にもより貢献していきたいですね」と言及。スポーツDXについてはコロナ禍による新たな課題も踏まえ、スポーツ業界を盛り上げていきたいと語る。
また、森谷氏はDXへの取り組みの大前提として、「DXに向けた大きな方向性を持ちながらも、少しずつPoCで検証を積み重ねていくプロセスも欠かせません。その観点からも一度失敗したからといってあきらめず、スモールスタートで少しずつ実績を積み上げ、改善につなげていくことが肝要です」と助言する。
久利生氏も「当社自身も長年、DXの取り組みで試行錯誤を繰り返してきました」と振り返る。実体験に基づく知見があるからこそ、顧客の悩みに寄り添うサービスが実現するというわけだ。
まさに異次元の変革が求められる今、デジタル化に経営の舵を振り切ることが喫緊の課題であることは間違いない。失敗を恐れることなく、まずは同社のようなDXの“先達”の知見、サポートを味方につけ、小さく一歩を踏み出すことが成功の近道と心得たい。