三井情報株式会社


『中小企業の情シス部門の概況と主な課題』(前編)


1.中小企業の情シス部門の抱える課題

 企業において情報システム(情シス)部門が担う業務の範囲は広く、アプリケーションからITインフラの戦略・企画、機器やドキュメントの管理、システムの運用保守、さらには、社員からの問合せに対応するヘルプデスク業務など多岐にわたります。いずれの業務にもIT知識と社内業務に精通した担当者が不可欠ですが、特に従業員が数10名から300名程度の規模の企業(以下、中小企業)においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ビッグデータ、AI、セキュリティなどといったキーワードが世の中に広がり、経営課題の解決策としてデジタル化やIT化の必要性が増しています。

 さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴いテレワークといったキーワードも加わり、デジタル化/IT化に対する優先順位が上がってきています。経済産業省が発表した「デジタル化に対する考え方」についての調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の拡大前後で、"事業方針上の優先順位は高い"との回答が11.3%から20.2%に、"やや高い"との回答が34.4%から41.4%と増加しています。

図1 現在の情報システム部門の運用・保守についての体制


<出典>令和2年度中小企業のデジタル化に関する調査に係る委託事業報告書(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000260.pdf
図表 2.1.31 デジタル化に対する考え方



 ここまでのように、IT化の重要性、優先順位が高まっていますが、それを実現・運営する社員がおらず、育成のスキルやノウハウもなく、困っている会社も多いのが実情です。ここでは、中小企業の情シス部門によくある課題を、人員・スキル、定常業務、IT利活用の3つの観点に分けて見ていきたいと思います。



(1)課題1:人員・スキル不足

 中小企業における情シス部門の平均人数は、全従業員の1-2%程度と言われています。特に、従業員300名以下の企業においては、情シス部門の業務を1人で担当するいわゆる“1人情シス”や、経理・総務部門など他部門業務と兼任している“兼任情シス”のケースも多いようです。大企業のようにデジタル専門部門、事業部門、情報子会社などからのIT支援も受けられず、情報システム/ITに関する全社の要望や期待を一身に受けていると推測されます。

また、中小企業の情シス部門では、

      ● 業務範囲は広いのに人数が少ないうえ、問合せ対応や運用保守業務に大半の時間を取られてしまい、IT環境を良くしていこうというモチベーションが持てない
      ● 担当者の多くがジョブローテーションで着任し、数年で他部門へ異動してしまうため、会社としての知見蓄積や安定運営、品質向上ができていない
      ● あるいは逆に、同じ担当者が長期間担当することで業務が属人化してしまっている
といった課題が発生しがちです。


(2)課題2:定常業務の過負荷

 情シスの業務に関する調査やお客様へのヒアリングを行うと、情シス担当者が最も時間を使っている業務は、「システム保守・運用・報告」「問い合わせや障害対応」が多くの時間を占めているようです。更に、既存システムの改善&継続利用に位置付けられる「新システム導入/システム改定プロジェクト」にも多くの時間やリソースが割かれます。

 また、企業におけるIT予算配分においても、各種調査を見ると既存ITシステムの維持・管理が3分の2程度を占め、新規システムの導入が3分の1程度となっています。将来の目標としてはDXなどに代表されるIT投資が増加すると見込まれますが、一般的に売上高の0.5-2%程度と言われるIT予算の多くが、既存システムの維持・管理に使われているのが現状です。

 このように、IT予算の投下状況からも、担当者が既存の定常業務に忙殺されている姿が垣間見えます。


(3)課題3:IT利活用計画が定まっていない

 最後に、IT導入を進める際に中小企業が抱えている課題について、中小企業庁が実施した調査の結果を紹介します。最も割合が多かったのは「コストが負担できない」(30.6%)でした。費用面以外では「導入の効果が分からない、評価できない」(29.6%)、「従業員がITを使いこなせない」(21.5%)、「IT導入の旗振り役が務まるような人材がいない」(17.0%)の割合が高く、どのようにIT環境を整えていくか、IT利活用を推進していくか、が課題となっているようです。


図 III-80 Q40 ITの導入・利用を進めようとする際の課題


<出典>平成29年度 人手不足下における中小企業の生産性向上に関する調査 P.61
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000254.pdf
図 III-80 Q40 ITの導入・利用を進めようとする際の課題



また、別の調査では、企業がIT 投資で解決したい将来の経営課題として迅速な業績把握、情報把握や、業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)などが挙げられます。

 これらの内容を照らし合わせると、経営サイドはIT投資によって業務プロセスの効率化や迅速な業績把握、情報把握の実現を期待しているものの、現場サイドでは定常業務に大きく時間を取られて新しいITツール導入推進まで手が回らなかったり、専門的なスキルを持った人材の不在でIT投資効果の有無が判断できずに、経営サイドが期待している経営課題の解決が進まなかったり…というジレンマが発生していると推測できます。

次回、後編では情シス部門の業務範囲、中小企業におけるアウトソーシングの効果的な活用について見ていきたいと思います。

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<参考資料>
JUAS 企業IT動向調査報告書 2021
https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/JUAS_IT2021.pdf
https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/it21_ppt.pdf

令和2年度中小企業のデジタル化に関する調査
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000260.pdf

人手不足下における中小企業の生産性向上に関する調査
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000254.pdf