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母と子の不思議なつながり

2018/05/25

 

 

バイオサイエンス部 バイオサイエンス室

 

 


あなたの身体の中にはお母さんの細胞がほんの少し混じっています。同様に、お母さんの身体にもあなたの細胞が少し混じっています。お互いの細胞は血液を介して全身を巡っています。これは、お母さん(母体)が妊娠した際に胎盤を通してお互いの細胞が少しだけ混じることによって起こります。お互いの細胞は何十年にもわたって体内に残っていることが分かっており、この現象は「マイクロキメリズム」と呼ばれています。


ヒトには優れた免疫機構があり、自己と非自己を区別し、非自己は排除しようとするシステムが働きます。そのおかげでウィルスや菌の感染から身体を守っていますが、一方で臓器移植では移植された臓器(非自己)を攻撃してしまうという問題が起こります。そのため、母体が赤ちゃん(胎児)を非自己として排除しないよう、胎盤は母体と胎児の血液循環を完全に分離する機能を有していると考えられていました。しかし、栄養や酸素以外に細胞も胎盤を介して移動し、しかも、移動した細胞は免疫機構で排除されることなく何十年も互いの身体に残っているのです。


この胎盤を介して胎児からやってきた細胞は母親が心筋梗塞を起こすと、心臓に集まってきて傷を修復し、母親の心臓の細胞の一部となっていることがあります。心臓以外にも様々な臓器、そして脳にまで胎児の細胞が発見されています。修復機能が高まるので母親の身体が少し若返っていることになりますが、残念ながらお肌がピチピチという効果はないようです。これらの現象から、マイクロキメリズムはお互いの身体を守るために送り込まれた贈り物なのかな、と思いきや、一方で、この細胞、いいことばかりではなく、リュウマチなど免疫系が関与する様々な疾患を誘引しているとも言われています。何のために少しだけお互いの細胞を送り込み、そして、どうして免疫系から排除されずにいるのでしょうか。


現在、マイクロキメリズムを利用した技術として、母体の血液にある胎児の細胞から特定の遺伝子疾患を診断する出生前診断があります。マイクロキメリズムは免疫系の疾患や乳がんにも関与していることが示唆されており、その研究は医療や医薬品開発に大きな影響を与えることでしょう。

 
MKIのバイオサイエンス部ではAI、シミュレーション等のバイオインフォマティクス技術とスパコン「京」やクラウドといったIT技術を活用し、様々な研究機関、企業に対して創薬支援を行っています。近年の創薬は従来のような薬(低分子リガンド)だけでなく、抗体やRNAなど、バイオ医薬品と呼ばれる生命現象を利用した治療へと広がっています。マイクロキメリズムは他者由来の細胞が分化する前の幹細胞の性質を持っていますが、マイクロキメリズムの研究が進み、どうやって全身にいきわたり、損傷箇所に集まるのかが分かれば、iPS細胞やES細胞を血液に注入して、バイオ医薬品の1つとして利用することができるのでしょうか。当社も抗体やRNAといったバイオ医薬品の研究支援を行っていますが、将来マイクロキメリズムも支援内容に加わるのでしょうか。今後がとても楽しみです。

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