2017年12月21日付の弊社コラム「130年ぶりに変わる重さの定義」はお読みいただけましたでしょうか?
2018年にかけて見直しの行われていたSI基本単位(秒、メートル、キログラム、アンペア、ケルビン、モル、カンデラ)ですが、日本においてもついに令和元年5月20日に「計量単位令の一部を改正する政令」として施行されました。さて、具体的にはどうかわったのでしょうか。今回定義が変わったのは、キログラム(質量)、アンペア(電流)、ケルビン(温度)、モル(物質量)の4つの計量単位ですが、本コラムでは、そのうちのキログラムについて詳しく見てみたいと思います。
下の表は、「計量単位令」より新旧キログラムの定義を抜粋したものです。
表1.「計量単位令」新旧比較
新 |
旧 |
プランク定数を十の三十四乗分の六・六二六〇七〇一五ジュール秒とすることによって定まる質量 |
国際キログラム原器の質量 |
※新旧対象条文(PDF形式:70KB)(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190514002/20190514002-4.pdf)を参考に三井情報が作成
さて、いかがでしょうか?さっぱりわからなくなりました。「国際キログラム原器」は画像検索すれば、すぐにどんなものか雰囲気はつかめると思います。新しい定義ではまず「プランク定数」で躓き、次に十の三十四乗分の六・六二六〇七〇一五ジュール秒で躓きます。
これを読み解くにはアインシュタインの力を借りなければならないようです。
アインシュタインの考え出した二つの関係式、特殊相対性理論に関するE = mc2と光量子仮説に関するE = hνから、mc2 = hνが導けます。この式を変形して、ν = mc2 / h とし、質量m = 1キログラム、先ほどのプランク定数h = 6.62607015×10-34、真空中の光の速度c = 2.99792458×108m/sを代入すると、1キログラムの質量は「周波数がν = (2.99792458×108)2 / 6.62607015×10-34 = 1.35…×1050ヘルツの光子のエネルギーと等価な質量」と再定義されたことになります。
光(ここでの光は電磁波全般の意味)の周波数は、電子レンジのマイクロ波で大体109ヘルツ、私たちの目にする可視光線で1014ヘルツ、核反応で放出されるガンマ線でようやく1018ヘルツ以上です。上述のE = hνで示される通り、エネルギーEは周波数νに比例しますので、1050ヘルツの光子は1014ヘルツの光子の1036倍のエネルギーを持つことになり、従って1キログラムの質量は「我々の目にする可視光線の光子の1036倍のエネルギーと等価な質量」となるわけです。真夏の直射日光で1平方メートルあたり毎秒2000μmol(計算は割愛しますが大体1021個)の光子が降りそそいでいるそうですので、1キログラムの質量は「真夏の炎天下に東京ドーム約600万個分が1時間で受け取る直射日光のエネルギーと等価な質量」と再定義されたといえるのではないかと思います。
いかがでしょうか?新しいキログラムのイメージがつかめましたでしょうか。
MKIのバイオサイエンス部では生命科学を中心に先端の科学技術とITを融合し、研究の世界を皆さんの活躍する社会へと繋ぐ架け橋となるべく、アカデミアシーズの社会実装というテーマを掲げ日々の業務を執り行っています。
中川 寛之
ソリューションナレッジセンター
バイオサイエンス部 バイオサイエンス室
製薬企業や大学・病院の研究室などに向け、ITやバイオインフォマティクスの活用を支援。
タンパク質立体構造のモデリングシステム開発やその創薬への利活用、がんゲノム変異解析パイプラインの開発などに従事。
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