「がんゲノム医療」という言葉を耳にしたことはありますか?
ご存知の通り、「がん」は日本人の死因第1位の疾患です。生涯のうちに日本人の2人に1人はがんになると言われており、比較的身近な病気の一つとも言えます。
「ゲノム」とは、親から子に伝わるすべての遺伝情報のことで「生命の設計図」とも呼ばれています。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の化合物(塩基)が並んだデオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic Acid: DNA)でできています。このゲノムの中には、実際に人間の身体を構成するタンパク質の設計図である遺伝子が約2万個含まれています。
がんは、このゲノムが変化することによっておこる病気で、正常な細胞の遺伝子が変異し、その変異した遺伝子が増殖して発症します。遺伝子の変異は、先祖から受け継ぐ遺伝が原因となる先天的な要因や、生活習慣・喫煙等が原因となる後天的な要因により発生します。どの遺伝子に変異が起こるかは患者さん一人一人で異なるため、その治療法も患者さんごとに異なります。
「がんゲノム医療」とは、がん患者さんのゲノム情報を解読してそれぞれの患者さんに合った最適な治療を行おうという新しい医療です。これにより、より効果の高い、より副作用の少ない治療を選択できる可能性が高まります。そして、このがんゲノム医療に必要なゲノム情報の解読をするために行う検査を、「がん遺伝子パネル検査」と呼びます。2019年5月、このがん遺伝子パネル検査が保険適用されることが決まり、保険診療として今後全国的な普及が期待されています。今年が「令和元年」であることに掛けて「がんゲノム医療元年」と言う人もいるくらいです。
がん遺伝子パネル検査は、がんに関連する数十から数百の遺伝子を一度に網羅的に調べることができる検査です。検査には次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer : NGS)と呼ばれる測定機器を使用しますが、尿検査や血液検査などの一般的な臨床検査とは異なり、NGSによって測定された大量のDNA配列情報からバイオインフォマティクスと呼ばれる情報解析技術を用いてがんの原因と考えられる変異を特定します。実はこのバイオインフォマティクスの部分が非常に重要かつ複雑で、がんに関する生物学的知見やNGSのデータ特性に関する知識、高度な統計解析技術などを駆使して分析アルゴリズムを開発する必要があります。
三井情報は、このバイオインフォマティクスの分野で40年以上の実績があり、がんゲノム医療にも早くから力を注いできました。先日国内で初めて保険適用されたがん遺伝子パネル検査の解析プログラムには、当社の技術が採用されています。※1
その他にも、2015年には日本で初めて臨床導入された網羅的がん遺伝子解析サービス「OncoPrime」の提供を開始しました。OncoPrimeは223の遺伝子を一度に測定することができる検査で、それまで医療現場で行われていなかったがん遺伝子パネル検査を、日常臨床の中で実施できるようにと病院内での運用体制の構築からパートナーの医療機関とともに創り上げてきました。
現在でも多くの医療機関でOncoPrimeを受診することができますが、私たちのサービスを通して患者さんのQuality of Lifeの向上に少しでも貢献できればと願っています。今後も患者さんにより良いものを届けられるように、分析技術の向上やサービスの改良を日々続けていきます。
※1:関連プレスリリース(2019/6/3配信)「MKIの解析技術を採用したがんゲノムプロファイリング検査用システム『OncoGuide™ NCCオンコパネル システム』が保険適用に」(https://www.mki.co.jp/news/solution/20190603_1.html)
望月 洋明
ソリューションナレッジセンター
バイオサイエンス部 ヘルスケア事業室
OncoPrime検査の運用およびアカデミア・医療機関向けにゲノム解析支援を担当
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