データドリブンな意思決定とその難しさ

2021/10/13
DXコンサルティング部 第三技術室

はじめに

近年様々な企業がAIをはじめとしたデータドリブンで意思決定を高度化する取り組みを進めています。しかし、実際に自社にAIを導入し、継続的にビジネス価値を享受している企業はまだまだ少数です。多くの企業がAI活用に関心があるものの、具体的なアクションに至っていない、またはAI技術やユースケースの机上調査や検討ないしはPoC(Proof of Concept)の実行に留まっている状況が多いのが現状です。なぜでしょうか。本記事では主にAI活用に焦点を当て、AIを活用した意思決定の難しさや、難しさを少しでも軽減するための考え方をご紹介します。

AIの難しさ① アウトプットが不確実

皆さんはAIについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。例えばWebで検索すると、需要予測、コンバージョン予測、故障予測等と様々なテーマがヒットするのではないでしょうか。全て正解です。そしてこれらに共通するポイントは、AIから導き出されるアウトプットが「予測」である点です。つまり、不確実性のあるアウトプットを業務上の意思決定に活用するということです。予測が当たれば、AIをビジネス適用することで強いメリットを得られるでしょう。一方で、残念ながら予測が外れることも当然あり、その外す度合いや運用方法によっては大きなデメリットとなってしまう可能性すらあります。

AIの難しさ② 何から着手すべきか分からない

AIの導入を検討する際には、自社の状況を正確に理解することが大切です。例えば、AIで解決したい課題や実現したいテーマは明確か、或いはまだ模索している状態か。必要なデータは自社に存在するのか、また部門やシステム間でサイロ化されることなく適切にデータ基盤に管理されているのか。AIで実現したいことや評価指標が明確で、データ基盤も整備されている場合は早期に結果を出すことが可能でしょう。しかし、AIへの適切な期待値が設定されていない、質の良い課題やテーマが設定されていない、またはそもそもデータが整備されていないことも多いのではないでしょうか。このような状況でもデータがあればAIを構築することは可能ですが、期待した成果をあげられない、あるいはビジネス適用段階で課題が生じることがあります。これがいわゆるPoCで止まってしまうケースです。

AIの難しさ③ 人材の不足

データサイエンティストを含むAI人材の不足は社会的な課題です。多くの企業がAI活用の取組みを実行していますが、外部人材に過度に依存するのではなく、データサイエンティストの採用や社内教育を通して自立自走する方向性を探っています。昨今の所謂AIブームは、2012年に行われた画像認識の世界大会「ImageNetチャレンジ」というコンテストで優勝したチームが深層学習を使用したところに遡ります。つまり、まだブームのきっかけから10年程度しか経過しておりません。その上データサイエンティストは教育コストも高いため社内で人材を育成することも難しく、人材リソースが限られた状態が続いています。

 

では、上記のような課題に対して、どのようなアプローチで取り組むべきなでしょうか?改めて問題点を整理して、取組みのヒントとなるアプローチをご紹介します。

期待効果を生む適切なテーマを設定すること【「AIの難しさ」①②へ対応】

AIを含むデータ分析には、ガベージイン・ガベージアウトという言葉があります。これは質の悪いデータで学習しても、質の良いアウトプットは期待できないということを意味します。このようにAIは扱うデータやデータサイエンスという技術の良し悪しに意識が向きがちですが、実は解決すべきビジネス課題に対してどのようなテーマを設定するかということが重要です。適切なテーマを設定しないと、適切な効果を享受できません。つまり「テーマ設定」に対してもガベージイン・ガベージアウトが適用されるのです。下記の通り、テーマを選定するときの抑えておくべきポイントはいくつかあります。検討初期フェーズから適切なビジネスの理解やAIへの適切な理解や期待値を持ち、ビジネス適用や業務運用まで見通されているかがポイントになります。AIプロジェクトは手元にデータが存在すれば、取り敢えず進めることが可能であるため、下記ポイントの優先度が低くなりがちですが、事前に丁寧に整理し、関係者と合意した上でプロジェクトを開始すると、より成功確率が高まるでしょう。

 

■テーマ設定時に抑えておくべきポイント

データサイエンス人材に過度に依存しない仕組み作り【「AIの難しさ」③へ対応】

一方で、AIは検証しないと精度や、効果が想定通り享受できるのかが分からないという性質を持ちます。従い、適切なテーマ設定をした上で、検証しないと分からない状況に対して、どのようにして迅速にPDCAを回していくか、ということが大切になります。そこで重要な役割を担うのがデータサイエンティストになりますが、DXへの取り組み需要の高まりに伴い、データサイエンス人材の不足や雇用コストの高騰化が課題となっています。このDXの需給Gapを解消するためには、企業の中でDX人材の裾野を広げる必要があり、これには主に2つのアプローチがあります。1点目はDX教育や専門組織の立ち上げを通して、自社内でDX人材を育成していくアプローチです。現業との兼ね合いもあり、時間は掛かりますが、企業全体でのDX推進の効果が期待され、現在多くの企業でDX人材の社内育成が進められています。2点目は、データサイエンティストの技術力に過度に依存するのではなく、技術や製品を上手く活用するというアプローチです。近年、AutoMLと呼ばれるAI構築を自動化するプラットフォームを耳にすることも多くなってきたと思います。AutoMLはAI民主化と呼ばれることもあり、データサイエンスのテクニックやBest Practiceが実装され、ノーコーディングでAIモデルを構築することができるプラットフォームです。AutoMLを利用することで、データサイエンティスト枯渇による人的ボトルネックを軽減し、シチズンデータサイエンティストや事業部門が自立自走してデータドリブンな意思決定を推進することが期待されます。またAutoMLを活用することにより、AIの技術的難易度が低減され、DX人材育成期間の短縮も期待されます。

 

■データサイエンス人材不足に対する2つのアプローチ

まとめ

AIプロジェクトは、検証してみないと効果が分からないという性質やAIに対する漠然とした高い期待値により、プロジェクト序盤では高い効果を期待するにも関わらず、モデル構築、ビジネス適用とフェーズを進めるにつれて、期待値や成功確率が下がることが往々にしてあります。成功確率を高めるには、期待効果を生む適切なテーマを設定し、データサイエンス人材に過度に依存しない仕組み作りが重要です。当社顧客企業に於いても、期待効果や運用フェーズまでの業務プロセスを見据えてプロジェクトをご支援したことにより、現在、AIが業務プロセスに適切に組み込まれ、また顧客企業による自律的なAI運用へ繋がっています。

おわりに

データ活用は今後ますます多くの企業で推進されることが予想されます。従来型のITシステムとは異なり、要件定義の段階でアウトプットが望ましいものになるかが分からない、或いは具体的な開発スケジュールを決めにくい等の難しい問題が発生します。これを踏まえずに闇雲にPoCを実施してもその先に繋がる成果が得られにくく、むしろそうした問題を回避、軽減するためには綿密な計画が重要です。当社では、バイオヘルスケア、金融、電力等様々なインダストリーに向けIT導入・利活用を支援しており、対象領域へのドメイン知識*1 と豊富なICT知見を持っています。テクノロジーやプラットフォームに加え、蓄積されたドメイン知識を活かして、お客様のデータドリブンな意思決定を伴奏型でご支援するコンサルティングサービスを提供しています。具体的なお悩みのある方はもちろん、これから検討を始めたいという方も、お気軽にご相談ください。

 

■三井情報のコンサルティングサービスイメージ

 

*1 機械学習を適用しようとする対象領域に関する専門知識

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