金融機関における事業性評価

 
2019/09/18

 

 

金融リューション部 第一技術室

はじめに

 

「事業性評価」という言葉をご存知ですか。
知っている、と答えてくださった方は、おそらく次のどちらかの意味で理解されていることと思います。

・ 事業計画や研究開発プロジェクトなどを推進すべきか意思決定する方法の一つとして、そのプロジェクトが持つ事業性を評価する
・ 銀行などの金融機関が企業に融資を行う(=お金を貸す)際に、借り手となる企業の事業性を評価する

どちらも「事業としての内容・価値を評価する」点は同じですが、評価する主体や目的・対象などが異なります。
このコラムでは後者、つまり、金融機関の融資における事業性評価についてお話しします。

金融機関の融資における事業性評価

金融の動向に詳しい方は、2014年に金融庁が公表した平成26事務年度金融モニタリング基本方針の中で、重点施策の一つとして「事業性評価に基づく融資等」が示されたことが大きな方針転換と受け止められたことをご記憶かもしれません。
これをきっかけとして日本の金融機関、とりわけ、地域金融機関(※1)に対して事業性評価に基づく融資の実施が求められるようになりましたが、そこには、国際化・高齢化・人口減少などを背景とした日本社会や地域経済の状況認識に基づいて、次のように記述されています。

 

金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(「事業性評価」)、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる。(※2)

 

すなわち、ここでいう事業性評価では、

・ 融資先(借り手企業)が企業全体としてどのような事業を展開しているか
・ 展開している各事業や、その組み合わせとしての企業全体の現在価値と将来性などがどの程度であるか

などをきちんと把握して評価する必要があります。
また、

・ その事業性評価を、財務データや担保・保証と並ぶ、融資や助言を行うための基準として用いること
・ 融資や助言を通して企業や産業の成長を支援すること

が求められています。


企業や産業の成長支援は、金融機関の社会的役割の一つとして期待されるものであり、また、特に地域金融機関にとっては、その地域の企業や産業の活性化が自身の収益性向上にも繋がることは、一般論としても理解しやすいのではないかと思います。
一方、わざわざ「財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく」と明言していることについては、従来の融資審査(お金を貸してよいか、いくらまで貸せるか、金利はどの程度にすべきか、などを判断する)における財務データや担保・保証の位置づけを理解する必要があるでしょう。

 

 

※1 地域金融機関とは、特定の地域を営業基盤とする金融機関のこと。代表的な業態としては、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、など
※2 「平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」(金融庁)Ⅱ.重点施策 2.事業性評価に基づく融資等」(https://www.fsa.go.jp/news/26/20140911-1/01.pdf)より抜粋

従来の融資審査

金融機関が融資を行う際には必ず審査を行いますが、それはなぜでしょうか。
当たり前のことのようですが、そこから考えてみたいと思います。

 

そもそも金融機関にとっての融資は、お金を貸す代わりに利息という儲けを得るという資金運用の手段です。このとき、貸したお金(元金)が返ってこなかった、あるいは、利息が取れなかった、などということがあると、金融機関が損することになりますので本末転倒です。そこで、融資先がちゃんとお金を返してくれるかどうかを評価・判断する必要があり、これこそが融資審査を行う理由となります。

 

では、ちゃんとお金を返してくれるかを、どのように評価・判断すればよいでしょうか。
有名だから、評判がよいから、社長の人柄が誠実だから、など企業の良し悪しを評価するポイントは人それぞれですが、金融機関の業務として審査を行うからには、担当者によってあまりにも評価が変わってしまっては困りますし、評価の根拠をきちんと説明できる必要もあります。

 

そこで利用されるのが、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった決算書に記載されている数値情報、つまり、財務データです。財務データを用いることには、次のような利点があります。

・ 数字で示される(定量情報である):誰が見ても同じデータとして扱える
・ 会計基準など法令に定められたルールに従って作成される:客観的なデータとして扱える

すなわち、個々の担当者によるバイアスなどをできるだけ排除し、いつでも説明できる根拠として利用できるわけです。このような特徴を持つ財務データを分析して企業を評価することを財務分析と呼び、借りたお金を返済するための利益が十分あがっているか、いざというとき返済の財源となる資産が十分か、などを評価できます。かつての大蔵省や金融庁も、金融機関に対して財務分析を利用するよう指導していました。(長くなるので、詳細については割愛させていただきます。)
財務分析は長年に渡って研究されており、書籍やシステムも多く世に出ています。弊社でも1982年からCASTER(※3)を提供しており、多くの金融機関に導入いただいています。

 

財務分析によって融資先に対する客観的な評価が可能となりますが、融資によって損をしないようにするためのもう一つの工夫として、お金を返してもらえなかったときの代わりを確保しておくという方法があり、担保や保証と呼ばれます。返済できなくなったとき、代わりに金融機関のものとできる融資先の財産が担保、代わりに金融機関へ支払いを行うのが保証です。個人でも住宅ローンを組むときなどに土地や建物を担保とされたり、保証会社に手数料を支払ったり、といったことでご存知の方もいらっしゃるでしょう。

 

もちろん、金融機関は他にも様々な情報を集めて審査を行っていますが、財務データや担保・保証が占める部分が大きかったことが、「財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく」と記述される背景となりました。

 

 

※3 財務分析システム:CASTERについて詳しくはこちらから https://www.mki.co.jp/solution/caster.html

時代の変化

ところが、財務データや担保・保証による審査にも弱点があり、時代の流れとともにその弱点がクローズアップされることになりました。

 

その一つは、システムによって計算されるスコアリングの偏重につながることです。
上述した通り財務データは数値ですのでシステムを使った自動的な処理と相性がよく、財務分析の結果を用いて融資先の評価を表す得点を算出(=スコアリング)し、その得点を融資判断のメインとするようになりました。
スコアリングによる審査は、人による判断のブレを除くなどの利点がありますが、数字には表れない個々の融資先の特徴(定性情報)に目が行きにくくなり、得点による画一的な判断が多くなる欠点もありました。
この点は事業性評価という言葉が出てくる前から問題視されており、例えば次のような指摘を見ることができます。

 

スコアリングによる定量面(P/L、B/S)の審査に偏重することのないようにするため、具体的にどのような工夫(定性面の評価等)・取組みを行っているか(※4)

 

また、担保・保証の重視についても、担保さえあれば融資できる、あるいは、将来有望な企業であっても担保にできる資産がないと融資できない、といった例が見られるようになり、これらの点を踏まえた指摘もなされています。

 

担保・保証に過度に依存しない適切なリスクテイクを阻害している要因は何か、事業の期待収益とリスクに対する評価能力(いわゆる「目利き能力」)を向上させるためにどのような取組みを行っているか、事業について知見を持った人材の確保と育成の取組みはどうか、といった商業銀行経営の本質的課題の改善につながる議論を、金融機関との間で深めていく。(※5)

 

このような欠点を補う必要性、そして、冒頭で触れた日本社会や地域経済の変化などが、融資審査におけるもう一つの評価軸としての「事業性評価」を登場させることになりました。
融資の判断において事業性評価が重視されるようになることで、スタートアップ企業のように財務基盤がぜい弱であっても有望な技術を持つ企業や、他に見られない独自の強みを持つ中小企業などが、その特長を活かした成長のための資金を、より容易に調達できるようになることが期待されています。

 

 

※4 「平成24検査事務年度検査基本方針」(金融庁)Ⅲ.検査重点事項 2.金融円滑化の一層の推進 (3)成長可能性を重視した金融機関の新規融資等の取組みの促進(https://www.fsa.go.jp/news/24/ginkou/20130430-7/08.pdf)より抜粋

※5 「平成25事務年度金融モニタリング基本方針」(金融庁)Ⅳ.金融モニタリング手法の見直しと課題 2.融資審査における事業性の重視(https://www.fsa.go.jp/news/25/20130906-3/10.pdf)より抜粋

事業性評価の方法

では、事業性評価はどのように行うのでしょうか。


率直に言って、事業性評価における確固たるセオリーのようなものはまだ見出されておらず、それぞれの金融機関や担当者レベルでの工夫や試行錯誤が行われているように見受けられます。
取り組み方としては、例えば、次のようなものがあげられます。

・ いわゆる「目利き能力」を向上させるための人材育成を行う
・ 業界や技術の動向について情報を収集し分析する部署を設置し、知見を蓄積する
・ 外部の専門家等との連携を深めて、不足する知見を補う

どれも一朝一夕でできることではなく継続的な取り組みが必要とされます。調査結果(※6)でも一定の進展を示しつつも取り組みの不十分さが指摘されるなど、概念としての事業性評価が定着する一方で、実施面において改善の余地が大きいことが示唆されています。

 

事業性評価をより効果的に実施するためには、上述のような取り組みとともに、そのベースとなるべき融資先の事業内容などに関する情報収集が不可欠です。そのためには、密なコミュニケーションを通じた融資先との関係深耕や、収集した情報の整理・把握を支援するようなシステムの構築、なども必要です。弊社でもCIPS(※7)やCASTER X(※8)の提供を通じて、金融機関の融資業務を支援できるようなソリューションの一層の充実を図っています。

 

 

※6 参考:「金融機関の取組みの評価に関する企業アンケート調査について」(金融庁)(https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20180926/index.html

 ※7 事業計画策定支援システム:CIPSについて詳しくはこちらから https://www.mki.co.jp/solution/cips.html
 ※8 CASTER Xシリーズについて詳しくはこちらから https://www.mki.co.jp/solution/casterx.html

さいごに

ここまで、金融機関の融資における事業性評価とその背景や現状について触れてきました。
金融の世界も変化が激しく、このコラムで触れた事業性評価の推進の後にも様々な新しい動きがあります。このコラムは金融の中でも融資という側面のさらにその一部分についてご紹介したものですが、昨今の金融機関の動向を理解する上での一助となれば幸いです。

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