コンタクトセンターシステムのクラウドとオンプレミスの比較

2022/03/28
クラウドソリューション部 第二技術室

はじめに

過去2回のコラム(*1)でお伝えしてきました通り、コロナ禍を経てコンタクトセンター業界でもテレワークが浸透し、それに伴いクラウドサービスの需要が高まってきました。長年コンタクトセンターソリューションを提供する三井情報でも、ここ数年の間にオンプレミス製品(以下 オンプレ)からクラウドサービス(以下クラウド)へ移行されるお客様が増えていると感じており、案件の引き合いではクラウドとオンプレ両方の提案を要望されるケースが少なくありません。そこで今回は、コンタクトセンター向けのクラウドとオンプレを比較して、それぞれのメリットやデメリットを解説するとともに、各社が展開する代表的なクラウドサービスを簡単にご紹介したいと思います。

 

(*1) 「社会の変化とコンタクトセンターのあり方 ~レコーディングソリューションの視点から~」(https://www.mki.co.jp/knowledge/column106.html

  「ユニファイドコミュニケーションとコンプライアンスレコーディング」(https://www.mki.co.jp/knowledge/column114.html

クラウドのメリット・デメリット

最初に、オンプレとクラウドの比較を簡単に表にまとめました。導入期間やライセンス形態以外にも、様々な違いがあることがお分かりいただけるかと思います。

  オンプレ クラウド
ライセンス
/価格
・導入時一括買い切り ・月額ライセンス型or従量課金型
導入期間 ・6か月程度~ ・3か月程度~
機能

・製品の組み合わせでシステム構築
・カスタマイズしやすい

・シンプルなUI
・クラウド同士の場合、連携がしやすい
セキュリティ ・製品毎にセキュリティ対策を施す必要有
・自社NWに置かれる
・インターネットを経由する
・通信は暗号化されている
・サービス提供者のポリシー次第
保守 ・ベンダーエンジニアによる技術解析可能
・保守費が掛かる
・パッチなどのアップデートは選択可
・基本的にメーカ保守。機器などの保守が不要
・ログの閲覧ができないケース有
・パッチなどのアップデートは自動
通話品質 ・従来通りの品質 ・オンプレと比較すると劣る場合有
回線 ・0ABJ(*2)、050、トールフリー(0120,0800)など利用可
・番号ポータビリティ・回線移行可能(一部移行不可なケースも)
・050は利用可、0ABJも一部利用可
・既存契約回線の持ち込みができないサービス有
 →ボイスワープ等で対応する必要有

 

 次に、オンプレと比較したクラウドのメリットデメリットを紹介したいと思います。

まずは、メリットです。

~ クラウドのメリット ~

  1.サービスインまでのスピード

導入の早さはクラウドサービスの特長と言えます。

まず、機器の調達・セットアップが不要です。付随して、機器設置に必要なラック・電源設備の手配といったことも不要になります。

さらに、オンプレミスで実施している基本設計など各種設計も削減できる部分がでるため、設計にかかる期間が少なくなります。要件によりますがシステム連携に関しては設計が必要になりますので、この辺りは注意が必要です。

次に、ユーザ側の設備です。基本的にはインターネット環境とPC・ヘッドセットのみとなります。オンプレでよくあるクライアントモジュールなどメーカ提供物をインストールしなくていい点もセットアップの時間短縮を考えると非常にありがたい点です。

 

(*2) 0ABJとは、固定電話のうち一般の加入電話に番号を割り当てる方式で、IP電話用の電話番号と区別する際に用いられます。

 

2.コスト

クラウドは月額ライセンスまたは従量課金が基本になります。月額ライセンスの料金はその月に利用したユーザ数や同時ログイン数などで決定されるため、利用実績に応じた支払いになります。(オンプレのように固定費ではないので、コスト予測は少々難しくなります)

また、繁忙期などの業務の増減にも対応しやすいのが特長です。オンプレミスのシステムはベンダーや有資格者がライセンス追加等を行っているケースが多いと思いますが、クラウドでは人員増加や繁忙期にライセンスを足すといった作業の事前調整も考えなくてよいです。

 

3.拠点が不要になる

先ほど述べたようにクラウドサービスの利用に必要なのはインターネット環境、PC、ヘッドセットのみです。そのためオペレータの働く場所を問いません。また、システム連携で必要になるといった要件がなければ、拠点のサーバ設置も必要ありません。

テレワークはオペレータの家庭にインターネット環境があれば開始可能です。(現実的には運用面での調整等がありますので、すぐ開始というわけにはいかないかもしれません。

注意点としては、ご家庭の回線によっては、通話品質に影響がでるケースがあります。事前に試験して確認することを推奨します)

 

次はデメリットになります。

~ クラウドのデメリット ~

1.カスタマイズ性

クラウドのデメリットの一つとして、カスタマイズに向かないという点があります。仕様や画面の作りに至るまで、サービス提供する運営会社が決めたものを使うことになります。

そのため利用者の求める要求や会社のポリシーを完全に満たせないことがあります。

 

2.回線

対応可能な電話回線は、サービスによりまちまちです。050番号は利用できるケースが多いですが、市外局番は一部地域のものしか利用できないサービスもあり、既存回線を利用できない可能性があります。ボイスワープで転送するといった対応が必要になるかもしれませんので、オンプレからの移行を考える際は注意が必要です。

回線品質もサービスによりバラバラです。IP電話機と遜色がないものから、こもった音声になるものまであります。MoS値の最低保証をしていないケースもあるので、通話品質は事前確認をお薦めします。

 

最後に、メリットデメリットについて、一概に評価できない点を紹介します。

~ メリット・デメリットの評価が難しいポイント ~

1.機能面

機能については、三井情報が取り扱うサービス・製品の比較評価に基づいてご紹介にします。

まず、クラウドは機能がシンプルです。コンタクトセンター系のシステムの利用経験がある方であれば、大体の機能を直感的に使えると思います。筆者自身が、評価時にマニュアルを熟読しないと使えなかったのは、フロー設計ツールくらいでした。それくらいUIはわかりやすい作りだと思います。

次に、クラウドはコンタクトセンターの機能を広くカバーしていると言えます。PBX(ルーティング、電話)、レポート、レコーディング等のコンタクトセンターシステムの基本的な機能の提供はもちろん、機能が充実しているサービスだと、WFM(Work Force Management)、QM(Quality Management)、音声認識、AIボット、感情解析なども提供しています。

チャネルについても幅広く対応できます。チャットやメール、LINEなどのSMS連携をGUIベース連携できるものもあります。これらのチャネルはルーティングも提供しているため、電話と同じように、各オペレータに着信をスキルベースでルーティングすることが可能です。

また、クラウドはクラウド同士の親和性が高いです。細かな調整を除けば、公開されているAPIを利用するだけで連携できるため、足りない機能はサービス同士の連携によって補うことができます。

逆にクラウドの機能面のデメリットは、機能の深さにあります。先に述べた通りコンタクトセンターで利用される一般的な機能は幅広く提供されますが、それら一つ一つを細かくみると、オンプレにあったあの機能がないということが起こりえます。

例えば、クラウドのレポート機能ですが、

 ・レポート同士の統合やデータ加工がクラウド上ではできない

 ・レポートをグラフィカルに表示できない

 ・レポートの種類が少ない

などがあります。また、録音音声のマスクも、録音時に取得しないように工夫することはできますが、取得後マスクできるといった機能がないといった具合です。

 

その他の注意点として、仕様変更などアップデートが強制的に実施されます。特定のバージョンを利用し続けるといったことができず、使用感や機能詳細が変わってしまう可能性があります。

 

2.セキュリティ・コンプライアンス

クラウドの利用は基本的にインターネットを介したものになります。データは全て暗号化されており、セキュリティが担保されています。

一昔前はその堅牢性に疑いがありましたが、近年クラウドの方が安全性が高いという声もあります。これはクラウドサービスを提供する会社がセキュリティの専任エンジニアを雇って対応していることが主な理由になります。

実際、2018年にTLS1.3がリリースされた際も、私の知るクラウドサービスは、素早く対応していました。また、直近で話題になったLog4jの脆弱性についても公表から数日のうちに対応とレターが提供されていました。

一方で、データの保管場所は、基本的にクラウドストレージになるため、会社のポリシー上データをインターネット・クラウド上に置けないのであれば、クラウドサービスの利用は難しくなってくるでしょう。データ保持・削除といったポリシーも重要になります。

また、クラウドストレージが利用できる場合でも、物理的にサーバがどこにあるか、海外へ通信が流れるかなどは併せて確認が必要になるかもしれません。ただ、この辺りはサービス提供者が情報を公開していないケースもあるため、確認しようとしても回答が得られないケースがあります。

オンプレは社内で完結するため、データや通信を外部に晒すという危険性はありませんが、セキュリティパッチの適用は利用者もしくはシステムベンダーで行う必要があります。

製品紹介

続いて、具体的なサービスの紹介になります。

(いずれも2022年2月現在の時点で実施した評価をもとにした機能の総評となります)

Genesys Cloud

Genesys社が提供するオールインワン型のクラウドコンタクトセンターサービスになります。長年コンタクトセンター製品を提供していたGenesys社のクラウドサービスであり、オムニチャネルに対応した豊富な機能を備えています。国内でも既に300社を超える企業が利用しています。また、世界的に有名な調査レポートでも長年に亘り高い評価を得ている確かなサービスです。

NICE CXone

NICE社が提供するフルクラウド型のコンタクトセンターサービスになります。海外ではGenesys Cloud同様複数の調査レポートでトップクラスの評価を得ています。日本では今年から販売開始されたサービスで、電話やチャットといった基本的なチャネルはもちろん30を超えるソーシャルチャネルを扱うことができる点や、既存資源を活用できる仕組みが揃っている点が面白いサービスです。

Amazon Connect

Amazon Web Servicesが提供するAWSのサービスの一つです。ACD/IVR、レポートといった基本的なコールセンター機能を提供しています。また、AWSが提供する様々な機能と高いレベルで連携可能になっています。使いたい機能を使いたい分だけテナントに組み込めるという柔軟性の高いサービスになります。AWSが提供する様々な機能を活用するには、AWSエンジニアとしての知識が必要になると思います。

最後に

今回はコンタクトセンター向けのクラウドサービスとオンプレミス製品の比較を中心に、メリットデメリットをご紹介しました。

これまでクラウドの導入が進まないと言われていたコンタクトセンター業界ですが、テレワークの浸透やクラウドのセキュリティ機能の向上等につれ、導入の検討や、実際に導入を進める企業が増えています。また普及に伴いサービスのラインアップが充実してきたことで、オンプレかクラウドかではなく、どのクラウドサービスを選べば良いかというご相談も増えてきました。三井情報ではオンプレ・クラウドを問わず幅広い製品・サービスの知識をもとにお客様に最適なご提案を実施していますので、コンタクトセンター向けのシステム導入や移行をご検討の際はぜひご相談ください。

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