ローカル5G免許制度 押さえておくべき5つのポイント

2022/10/05
次世代基盤第一技術部 第一技術室

はじめに

2019年12月の電波法関連法令の制度改定により、自治体や企業でも5Gを用いたプライベートネットワークを導入できるようになりました。制度改定から約3年が経ち、様々な業種で期待されているローカル5Gですが、総務省へ無線局の免許申請が必須とされていることをご存じですか?導入を検討する企業の担当者は、この免許制度を理解し、あらかじめ必要な対応をとらなければなりません。

そこで今回は、ローカル5Gの導入を検討する企業担当者が押さえておくべきポイントを、5つに絞って解説していきたいと思います。


*参考:総務省「総務省ローカル5G導入に関するガイドライン」令和元年12月(令和4年3月最終改定)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000806829.pdf) 

本コラムの内容は、公開時点での総務省ガイドラインに基づく情報です。また、分かりやすくするために一部簡略化しています。
最新の情報や詳細については総務省の公開資料などでご確認ください。

1.免許申請とは何をするのか?

ローカル5Gの導入に際しては、総務省およびその地方局である総合通信局に対して無線局免許の申請を行い、免許を交付してもらう必要があります。無線LANで使われているWi-Fiは、特例的にユーザ毎の申請を免除されている区分の無線機器(ただし、通称『技適*』と呼ばれる認証は必須)を活用していますが、ローカル5Gに限らず、通常、無線機器の利用には、無線局免許の取得が導入の前提となります。

免許申請における各作業の流れや必要書類は下の図の通りです。申請受理から免許交付までの審査期間や後述の事業者間調整など、見通しにくい要素があるため、導入検討の際は余裕を持って準備することが必要です。

*技適:総務省により無線機器に対して認められる技術基準適合証明(電波法に基づく)および技術基準適合認定(電気通信事業法に基づく)のこと。前者はRが付く番号でラベル等に記載され、後者はTが付く番号で記載されます。


図1:ローカル5G無線局免許申請の流れ(技適取得済の機器を利用する場合を想定し、予備免許の記載は省略)


図2:ローカル5G無線局免許申請における主な必要書類

免許申請業務の委託

自社で免許申請手続きの全てを対応することが難しい場合、SIerなどの事業者に代理申請を委任することができます。この場合、代理申請業者に対する情報提供や委任状作成のみで免許申請が可能になります。さらに、免許人自体の委任も可能で、ローカル5Gを導入する企業がそれぞれの事情にあわせ選択することができます。

端末も免許が必要

ローカル5G環境で利用するスマートフォンやモバイルルーターなどの端末についても、特定無線局という区分にて免許申請が必要となる点に注意が必要です。また利用する端末の機種や台数を報告した上で、端末台数に応じた電波利用料の支払いも発生します。

免許交付後にも必要な対応

免許交付が完了した後も、無線従事者の選任届および運用開始の届出等、申請書類の提出が求められます。また5年毎の再免許や、無線局の廃止に際しても届出が必要など、様々な法令対応が継続的に必要になります。


2.同期方式・準同期方式とは何か?

現在、ローカル5Gで利用可能な周波数帯においては、TDD*の利用が前提となっており、時分割通信になる都合から他の無線局間との干渉防止目的で、アップリンク/ダウンリンク通信の比率やタイミングを合わせることがルール化されています。携帯通信キャリアで採用されている方式に合致するものを『同期方式』と呼び、基本的にはこの同期方式の利用が前提となっています。しかし、この方式ではファイルダウンロードなどのダウンリンク通信のリソース比率が大半を占めてしまうため、ローカル5Gのような高精細映像のリアルタイムアップロードなどの多様なニーズが存在しうる場合に対応できません。そこで、『準同期方式』と呼ばれるアップリンク通信に重点を置く方式が定義され、他の同期方式の無線局を保護するという制約条件下での利用が認められています。

ローカル5Gは、アップリンク通信帯域に制約が存在することが、よく比較されるWi-Fiに対しての劣位性として挙げられます(Wi-Fiにこのような制約は存在しません)。そのため、準同期方式への対応が、Wi-Fiに対する劣位性をカバーし、かつ携帯通信キャリアの5Gに対する優位性を持つ要素になると言えます。


*TDD(Time Division Duplex):時分割複信方式のこと。時間領域でアップリンク通信とダウンリンク通信を切り替える方式で、これに対するものとしてFDD(Frequency Division Duplex)という周波数領域で切り替える方式があります。


図3:4.6~4.9GHzの周波数帯における送信装置のフレーム構成*


*図3出典:総務省ローカル5G導入に関するガイドライン」令和元年12月(令和4年3月最終改定)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000806829.pdf) P.10「図1 4.6~4.9GHzの周波数帯における送信装置のフレーム構成」


準同期方式の免許手続き

準同期方式を利用したい場合、無線局免許の申請書類の一部である「無線局事項書」にその旨を記載します。利用シーンに応じて同期方式と準同期方式を切り替えることが想定される場合も、その旨を記載することで運用が可能です。ただし、同期方式で免許取得した基地局を準同期方式に切り替えたい場合は、事前に免許の変更申請が必要になります。

無線機側の対応

ローカル5G機器ベンダーは、基本的に少なくとも同期方式に対応した無線機を提供することになると考えられますが、準同期方式にも対応させたい場合は、機器選定の際に仕様を確認しておく必要があります。また現在、総務省にて準同期方式の拡張パターン導入が検討されているため、対応の有無が今後ポイントになってきます。


3.自己土地利用/他者土地利用とは何か?

ローカル5Gはプライベートな無線ネットワークであるため、各ユーザがどのように同じ周波数帯を利用するかをルール化する必要があります。そこで、『自己土地利用』と『他者土地利用』という、土地をベースとした2つの利用形態が定義されています。総務省によるこれら用語の定義は下図の通りですが、自己土地利用と他者土地利用では、大きくルールが異なります。ローカル5Gの導入検討の際は、自社の想定するローカル5Gの用途がどちらの形態となるのかをまず整理することになります。


図4:「自己土地利用」と「他者土地利用」の定義とイメージ

カバーエリアと調整対象区域

利用する周波数帯および帯域幅ごとに、伝搬モデル計算式により算定される受信電力の値を用いて、『カバーエリア』と『調整対象区域』という二つのエリアが定義されています。特に事業者間調整の要否を判断する際に、これらのエリア範囲が関わってきます。

図5:「カバーエリア」と「調整対象区域」の定義とイメージ

原則として自己土地利用が優先される

詳細は後述しますが、原則的には自己土地利用が優先されます。そのため、他者土地利用をせざるを得ない場合は、特に事業者間調整の観点で現行制度の理解が必要です。

他者土地利用では端末が移動できない

他者土地利用においては、固定通信の用途のみが認められており、可搬型の端末を持って移動するような使い方や、5G対応のロボットが移動するような使い方ができません。想定する用途としてこれを許容できない場合、現行制度においては、自己土地利用の範囲内でローカル5Gのエリアを構築するしかありません。ただし、この移動制限は緩和する方向で現在検討されています。

4.事業者間調整とは何をすれば良いのか?

ローカル5G免許申請の過程において、携帯通信キャリアや既存のローカル5G免許人との間で、電波干渉等が発生しないように調整する作業が必要であり、『事業者間調整』と呼ばれています。免許申請者は、総合通信局から調整先が誰なのかについて通知を受けた後、情報提供および必要に応じてアンテナ位置や出力などの調整を実施することになります。調整先により、以下2パターンに分けて説明していきます。

A)事業者間調整先が通信事業者の場合

全国MNO*に対しては、相手方の無線局(特にアンテナ部)に対して、物理的に遮蔽をしないような基地局設置を行うことを確認して貰います。また、NSA*方式の5Gでは制御通信用に4Gの通信環境が必要ですが、この用途で自営等BWA*を利用する場合、相手方が全国BWA事業者か地域BWA事業者かによって事前に必要な対応が異なります。全国BWA事業者に対しては、カバーエリアや基地局の諸元など詳細な情報を提供した上で、審査を受けることになります。一方、地域BWA事業者に対しては、基本的に地域BWAが利用されていないエリアでの免許取得が想定されていますが、地域BWA事業者から了解を貰い、合意書の添付をすることで免許申請が可能です。


*MNO(Mobile Network Operator):移動体通信事業者のこと。

*NSA(Non Stand Alone):一部4Gの設備を組み合わせて動作させる5Gの方式のこと。これに対して5Gの設備のみで構成される方式をSA(Stand Alone)方式と呼びます。NSA方式の制御通信で用いる4Gの無線設備には、自営等BWAの無線局を用意する方法以外にも、地域BWA事業者の支援を受ける、免許不要なsXGPのAPを活用するなど、いくつか方法があります。

*BWA(Broadband Wireless Access):ブロードバンド無線アクセスサービスのこと。全国BWA事業者と地域BWA事業者がおり、それぞれ特定の周波数帯を用いてサービスを提供しています。また、ローカル5Gと合わせて制度化された自営等BWAも存在し、プライベートネットワーク用途で地域BWAと同一周波数帯を利用します。

B)事業者間調整先がローカル5G免許人の場合

ローカル5G免許人同士の調整の場合、前述の『自己土地利用』『他者土地利用』と『カバーエリア』『調整対象区域』が重要となります。これらの定義を踏まえ、必要な対応を整理すると以下のようになります。

図6:干渉調整のパターンと原則

5.SIMカードの用意には何をすれば良いのか?

ローカル5Gを利用する場合においても、携帯通信キャリア網を利用する際と同様に加入者情報の認証が必要となり、いわゆるSIMカードを用意することになります。SIMカードの用意に際しては、まず「電気通信事業の登録・届出」「使用すべきIMSI」の二点を理解することが必要です。

電気通信事業の登録・届出

自社用途のためのローカル5G環境構築については、自ら構築を行う場合も他社に構築を依頼する場合も、基本的に申請手続きは不要です。一方、ローカル5Gのサービス提供については、その提供形態にも依りますが、事業者は事業の開始前に電気通信事業の登録あるいは届出が必要なケースがあります。

*電気通信事業法に関わる対応はSIMカードに限定されるものではなく、各事業者の事業内容に照らして対応の要否を確認する必要があります。

 

使用すべきIMSI

前述した電気通信事業の該否に従って、使用すべきIMSI*が決まります。わかりやすく言うと、自社用途でローカル5Gを自ら構築・利用する事業者や、設備が同一構内で完結するローカル5G環境を利用する事業者などは、「999-002」から始まるIMSIを使用し、それ以外の電気通信事業に該当する場合は、電気通信事業者が取得するPLMN ID*から始まるIMSIを使用します。これらを踏まえてローカル5Gのサービスを提供する事業者などから、適切なIMSIを持つSIMカードを調達することになります。


*IMSI(International Mobile Subscriber Identity):携帯電話網のサービス加入者を識別するためのIDのこと。IMSIのプレフィックスはPLMN(Public Land Mobile Network)と呼び、更にMCC(Mobile Country Code)とMNC(Mobile Network Code)に分かれます。特にMNCは、国から認可された事業者にのみIDが割り当られています。

*PLMN(Public Land Mobile Network) ID:移動体通信網に割り当てられたIDのこと。


図7:サービス加入者のIDであるIMSI

おわりに

ローカル5G免許制度のポイントを5つに絞って解説しました。新設の制度ということもあり、初めて見るワードやコンセプトもあったかと思いますが、これらを押さえることで、ローカル5Gの制度面での理解が深まるはずです。また、総務省のローカル5G検討作業班主導で、現在も制度の改正について継続的に議論されていますので、今後の動向にも注目です。

三井情報では、今回説明したローカル5Gの免許申請支援・代行を含む、ワンストップのローカル5G構築サービスを提供しております。ローカル5Gを検討する際は、ぜひお問合せください。

 

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