クラウドの端から失礼します。 vol.04

2020/1/28

経営企画統括部 戦略企画部 広報・CSV推進室

三井情報(以下、MKI)は6月からグループ会社全ての基幹システムをS/4HANA CloudとSalesforceを使ったクラウド環境へ移行するプロジェクト(以下、本プロジェクト)を実行中です。本プロジェクトでは、MKIが皆さまの実験マウスとなって全基幹システムをIaaS型クラウド環境からSaaS型クラウド環境(以下、SaaS)へ移行します。本コラムは本プロジェクトを蚊帳の外から生温かい視線で見守っているMKI広報担当ができる限り、技術者以外でも理解できるような文章を心がけて執筆しています。第4回となる今回は、皆様が待ちに待ったS/4HANA Cloudの本番稼働の状況や、本プロジェクト参加者がぶつかった壁である「発想の転換」、これらからわかったS/4HANA Cloudの導入・移行における心構えをお伝えします。

プロジェクトを始めて半年経ちました…。

 

MKIがプロジェクトを開始して半年が経過しました。当初2019年12月の本番稼働を予定していましたが、2020年1月現在、Salesforceは稼働し、S/4HANA Cloudは2020年4月稼働に延期となりました。S/4HANA Cloudの本番稼働が遅延している主な原因は2つあります。
1つ目はS/4HANA Cloudが提供する標準機能の理解不足です。MKIではS/4HANA Cloudへの更改に向けて、プロジェクト開始時に経営の意思として業務の標準化を決め、業務プロセスの見直しとなるBPR(Business Process Re-engineering)を進めることになりました。BPRはS/4HANA Cloudが提供する標準機能を基本とするため、事前にプロジェクト参加メンバー全員がS/4HANA Cloudの標準機能を理解しておく必要がありました。しかし、提供されているS/4HANA Cloudの資料に限りがあったことに加え、BPRと同時並行でベンダーの役割を担う技術部門での標準機能の動作確認が必要となったため、1つ1つのプロセスの確認に時間を要してしまいました。(導入実績のあるシステムを構築する際にも必要に応じて動作確認は行いますが、今回は初めて構築するシステムだったため、通常の動作確認よりも時間がかかってしまったようです。)また、当初S/4HANA Cloudはすでに導入実績のあるS/4HANAのクラウド版という前提でプロジェクトを開始し、S/4HANAで実現出来る事はS/4HANA Cloudでも実現でき、容易にBPRできると考えていました。しかし、実際にはこの二つは全くの別物で、S/4HANAで用意されている機能が全てS/4HANA Cloudでも用意されている訳ではないことが分かりました。
2つ目の原因としては、 S/4HANA Cloudで提供されるAPIの実装が一部利用できない状態であることです。S/4HANA CloudではSAP Cloud Platformと呼ばれるアプリケーション開発機能を使い、他のクラウドサービスとのAPI連携ができます。MKIではSalesforceなどの外部アプリケーションとの連携を予定していましたが、一部のAPIしか対応しておらず、想定通り動かないという問題が発生しています。そのため、現時点においてSalesforceはS/4HANA Cloudと連携ができず、設計の見直しや代替手段としてRPAなどの追加構築が必要になり、S/4HANA Cloudの本番稼働ができていない状況です。

 

我々を苦しめた「発想の転換」

また、S/4HANA Cloudの導入を進めるユーザーの立場であるMKIメンバーがぶつかった壁は「発想の転換」でした。多くの基幹システムはユーザーの希望を受けベンダーが『作る』基幹システムです。そのため、プロジェクト開始時には要件定義という夢を語るステップが設けられます。しかし、S/4HANA Cloudには要件定義というステップはありません。それは、S/4HANA Cloudが今までのように勝手気ままに基幹システムを『作る』のではなく、Fit to Standardとして用意された標準機能を『使う』基幹システムだからです。基幹システムを『使う』ためには、標準機能に業務プロセスを合わせるステップであるBPRが必要です。MKIメンバーももちろんBPRを進める必要があることは認識していましたが、実際にやってみると、S/4 HANA Cloudの標準とは何か?業務プロセスの標準とは何か?ということから始まりました。また、S/4HANA Cloudは、日本企業とは大きく違う欧米の企業文化をベースに機能や導入方法が考えられているため、「日本の商習慣に合わない」という思い込みから提供機能がそのままでは利用できないと考えていました。また、現在の業務プロセスは何かしらの理由があって運用をしており、これらを見直す発想の転換や社内関係部門の調整に時間がかかりました。このことから、Fit to Standardを実現するためには、S/4HANA Cloudの提供機能を確りと把握しておくことが必要であると痛感しました。もちろん一般ユーザーがFit to Standardの考え方とS/4HANA Cloudの機能をすべて理解するのは難しいので、MKIの知見を活かしながらSAP社からの支援も手厚くもらうのが一番良い方法な気がしてます。(個人の見解です(笑))

 

SAP S/4HANA Cloudを導入するにあたって

S/4HANA Cloudで提供される標準機能だけを使って基幹システムを構築すれば工期短縮とアドオン開発費用の削減が期待できます。しかし、S/4HANA Cloudに自社の業務プロセスを合わせるための改革ができるか分からない状態でプロジェクトを開始すると、思わぬ落とし穴にハマりかねません。自社の基幹システムを実験マウスとして更改中のMKIから、S/4HANA Cloudへの移行を検討している企業へはっきりと言えることは、自社の業務プロセスをFit to Standardにするために、プロジェクト開始前にしっかりとS/4 HANA Cloudの標準機能を把握しておくことです。そして、プロジェクトを進める上で欠かせない自社のBPRについては、現状の業務プロセスを「正」とせず、S/4 HANA Cloudを使うためにどのように業務を変更すべきか考える必要があります。これを実現するためには、S/4 HANA Cloudを使うために企業のルールを変える判断を経営陣が率先して迅速にステアリングすることが求められます。
迅速なステアリングに欠かせないS/4HANA Cloudの知見については、MKIにご相談いただければ、ここでは書けないような失敗談含めて共有およびアドバイスします!

プロジェクトの完遂はいつ…???

今回は少々ネガティブ要素の強い自虐的な内容となりました。観察している身としては、現在抱えている問題が無事に解決され、4月にS/4HANA Cloudの本番稼働を迎えて欲しいと願うばかりです。SAP社はS/4HANA Cloudの機能拡充に力を入れており、運用などの仕組みが強化されていくといった話も聞こえていますので、S/4HANA Cloudの標準機能拡充にも期待しつつ、日本でもS/4HANA Cloudに挑戦する勇敢なユーザーがもっともっと増えていけばいいなと思います。(MKIは挑戦する心を持つ勇敢な企業です(笑))
「2025年の崖」というパワーワードが巷でバズっているようですが、SAP ERPの保守切れである2025年は刻々と近づいてきています。いろいろな特集で2025年問題が語られており、その中でも個別最適化されたシステムを維持するためのIT人材が不足していくことが予想されています。こうしたことからも、これからの企業システムは『作る』ではなく『使う』ことを前提にしていかないと、企業自体の生き残りが厳しくなるのかなと思っています。MKIのように標準機能に合わせて自社の業務プロセスを柔軟に変える決断力のある経営者が、日本でどれだけ出てくるのか楽しみです♪(笑)

 

さて、第4回は本番稼働の延期から始まり、プロジェクト遅延の一因となった「発想の転換」とプロジェクト開始の心構えについてお伝えしました。次回は昨年開催したプライベートセミナー等でいただいた質問をベースにS/4HANA Cloudの導入を検討するみなさまの疑問に現場の生の声を交えながらお答えする予定です。次回もお楽しみに!

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