ローカル5Gにおけるハンドオーバーの話

公開日:2023/10/20

第1回 ハンドオーバーの概要

はじめに

モバイル通信では、端末が基地局のカバーエリアを跨いで移動することを想定し、円滑に通信が継続できるような技術が実装されています。異なる基地局間で移動端末の接続先切り替えを行う動作のことをハンドオーバーと呼び、モバイル通信の特長としてよく挙げられます。この連載コラムでは、ローカル5Gにおけるハンドオーバーの技術について、実際に検証した結果を適宜交えながらまとめていきたいと思います。
本コラムが、ローカル5Gの技術に興味のある方々の理解促進、ローカル5G導入を検討する際の一助になれば幸いです。

※ローカル5GではSA(Stand Alone)(*1)方式が主流となっているため、NSA(Non-Stand Alone)(*2)方式については本連載コラムでは触れないこととします。また、ハンドオーバーの技術仕様自体は、キャリア5Gとローカル5Gの間で違いはありません。

(*1) SA(Stand Alone):5G用の無線アクセスネットワークおよびコアネットワークのみで構成および提供される5Gの方式
(*2) NSA(Non-Stand Alone):一部、4G用の設備を活用して提供される5Gの方式

1. ハンドオーバーとは

ハンドオーバーとは、異なる基地局間において移動端末の接続先切り替えを行う動作のことを指します。

接続先の切り替えには2種類あり、業界標準である3GPP規格に則った用語を交えて表現すると、無線接続状態が継続している間(RRC(*3)-CONNECTED)に発生する、基地局主導の切り替え動作をハンドオーバー(Handover)と呼びます。一方、一定時間内に通信が行われないことで無線接続が休止している間(RRC-IDLE)に発生する、端末主導の切り替え動作をセルリセレクション(Cell Reselection)と呼びます。

(*3) RRC(Radio Resource Control):端末-基地局間で無線リソースの制御などを行う通信プロトコル

 

ハンドオーバーは主に3GPP TS38.331 Radio Resource Control (RRC) Protocol specification 、セルリセレクションは、主に3GPP TS38.304 User Equipment (UE) procedures in idle mode and in RRC Inactive state で規格が標準化されています。

※補足となりますが、5Gからは、RRC-INACTIVEというstate(状態)が新たに定義され、RRC-IDLEと同様にセルリセレクション(Cell Reselection)動作を行います。

2. ハンドオーバーの基本動作

ハンドオーバーの基本的な動作について、主なパターンにおける手順を簡略化して記載したものがこちらの図です。



①ネットワーク側で用意されたハンドオーバーに関わるパラメーターが、通信経路確立の際に、RRC Reconfigurationというメッセージで基地局から端末へ設定されます。
②設定内容に従って、端末は隣接基地局からの受信レベルや受信品質を測定し、設定された条件に合致する場合、これを基地局に報告します。
③報告された内容を踏まえて、基地局はハンドオーバーの実施要否を判断し、必要な場合はハンドオーバーの指示を端末に送信することになります。

なお、上記パターンを基本的動作として挙げていますが、別のハンドオーバーのやり方や、記載を省略したメッセージのやりとりも存在します。

3. ハンドオーバーの分類

ハンドオーバーには様々なパターンがあり、分類の仕方も色々あります。ここでは一部を紹介したいと思います。

ハンドオーバーが行われるノードやシステムに着目した分類
ハンドオーバーがどのノードやシステム間で実施されるかに着目した場合の分類です。5Gの基地局は、RU(Radio Unit)DU(Distributed Unit)CU(Central Unit)(*4)から構成されるものが主流となり、下図のように構成パターンが分かれます。

(*4)RU(Radio Unit):DU(Distributed Unit)CU(Central Unit)5G基地局としての機能を構成するユニット

 

 

AMF(Access and Mobility Management Function):5Gコアネットワークにおいて認証処理やモビリティ管理を担う機能
SMF(Session Management Function):5Gコアネットワークにおいてユーザーデータを伝送するためのセッション管理を担う機能
UPF(User Plane Function):5Gコアネットワークにおいてユーザーデータの伝送を担う機能
CU-CP(Central Unit-Control Plane):CUのうち、制御信号を取り扱うノード
CU-UP(Central Unit-User Plane):CUのうち、ユーザーデータを取り扱うノード

最近はRU/DU/CUが一体となったAll-in-One型の基地局が市場に出てきており、ローカル5G普及の後押しをすると見られています。また、ローカル5Gの場合は、ユーザーの運用利便性から複数メーカーの基地局の混在を避けると考えられ、Inter-gNB Handoverのうち、特にXn-based Handoverが、今後ローカル5Gを導入する企業にとって主なパターンになっていく可能性があると思います。

※N2-based HandoverにはAMFやUPFの変更を伴う派生パターンも存在しますが、ローカル5G環境下での使用は稀だと考えられます。


ハンドオーバー時の通信継続性に着目した分類
通信継続性に着目したハンドオーバーにはハードハンドオーバー(Hard Handover)とソフトハンドオーバー(Soft Handover)があります。
SA(Stand Alone)方式の5Gは基本的にハードハンドオーバーに相当するため、接続元/接続先の基地局と同時に通信することはできず、厳密には中断時間が発生します。ただし、DAPS(Dual Active Protocol Stack)Handoverという新たなハンドオーバーが3GPP Release16で定義されたため、これを利用するとソフトハンドオーバーとなり、接続先の基地局への切り替えが完了してから接続元の基地局との通信を切断することで、ハンドオーバー時の中断時間を低減することが可能になる見込みです。

※上記の他にソフターハンドオーバー(Softer Handover)というセクター間でのハンドオーバーもあります。

 



4. ローカル5Gにおけるハンドオーバーのメリット

5GがWi-Fi等と比較して「端末の移動時の通信が切れにくい」と謳われる要素として以下の3点があると考えています。これらを総じると「端末の移動時に通信中断時間あるいはパケットロスを抑えやすい」ことが分かり、ハンドオーバーに着目した際の5Gのメリットと言えるのではないでしょうか。

主要な技術仕様が業界標準の規格として統一されている
基本的に共通の技術仕様が採用されるため、例えばWi-Fi におけるローミングの場合と比較すると、相性問題が起こりにくく、基地局切り替え時のトラブルが少ないと言えます。また、ハンドオーバーはネットワーク主導の制御であるということも相まって、端末ごとの実装差異の影響を受けにくくなっています。

様々な通信要件を想定した複数のハンドオーバーが定義されている
「3. ハンドオーバーの分類」で説明したように、通信要件に合わせて複数のハンドオーバーが規格として定義されているため、ユーザーのニーズに応じて適した手段を取ることが可能です。

豊富なパラメーターを活用した設計および最適化が可能
ハンドオーバーを実施する条件となる隣接基地局との受信レベル差および閾値(Offset、Threshold)や、ハンドオーバーを実施するまでの条件が継続する時間(Time to Trigger)、ハンドオーバーの頻発防止(Hysteresis)など、多くのパラメーターが定義されており、端末移動時における通信品質を担保するための設計や最適化に活用できます。

ローカル 5G では、キャリア 5G や他の無線アクセスシステムでは満たせないような個別の要件をもつケースが多くなると考えられます。基地局の製品によってはユーザー側で設定変更できない場合もありますが、チューニングに使えるアイテムが豊富にあるということは、ローカル 5G 自体のメリットも高めることになると言えそうです。

また、高出力な電波発射が可能な5G(ローカル5G)は、Wi-Fi のような無線アクセスシステムと比較してエリアカバレッジを広く取れます。そのため、ハンドオーバー自体のメリットではありませんが、通信品質の低下につながり得る、端末移動時のハンドオーバーの機会を少なく抑えることができます。

おわりに

今回はハンドオーバーの概要について説明しました。次回以降では、詳細な技術仕様や検証結果について触れていきたいと思います。

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