クラウドの端から失礼します。 vol.06(最終回)

2020/10/22

経営企画統括本部 戦略企画部 広報・CSV推進室

三井情報(以下、MKI)は2019年6月からグループ会社全ての基幹システムをSAP S/4HANA CloudとSalesforce Sales Cloudを使ったクラウド環境へ移行するプロジェクト(以下、本プロジェクト)を実行しました。本プロジェクトでは、MKIが皆さまの実験マウスとなって全基幹システムをIaaS型クラウド環境からSaaS型クラウド環境(以下、SaaS)へ移行します。本コラムは本プロジェクトを蚊帳の外から生温かい視線で見守っているMKI広報担当ができる限り、技術者以外でも理解できるような文章を心がけて執筆しています。涙の最終回(笑)となる第6回目では7月20日より本番稼働を開始したMKI社内の様子をユーザの感想とともにお伝えします。

プロジェクト開始から約1年…。

MKIは2019年6月に基幹システムを半年でSaaSに移行することを目指して本プロジェクトを開始しましたが、プロジェクト開始後にS/4HANA CloudとSales Cloud間のデータ連携においてAPIが一部利用できないことが発覚。当初の本番稼働予定だった2019年12月はSales Cloudのみが稼働を開始することとなりました。
本プロジェクトにおいて、MKIは従業員が複数のシステムに同じデータを入力する手間をなくす「シングルインプット/マルチアウトプット」の実現を目指していました。しかし、頼みの綱だったAPIが使えないことが発覚し、別の方法でデータ連携を実装する必要が出てきました。そんな中で浮上した案は「APIが対応するまで手作業で.csvファイルのエクスポート/インポートをする運用」でした。しかし、毎日数千件のプロジェクト情報を扱うMKIでは人手を使ってもこの運用は非現実的という結論に至りました。そこで、今度はMKIが取り扱うたくさんのITソリューションを使った解決策を模索し、「人が行ってきた手作業を人が行っていたのと同じ手順で自動化する仕組み(RPA:Robotic Process Automation)」で対応することにしました。(ピンチヒッター:RPAのエンジニア(笑))
SaaS(Software as a Service)で提供されるサービスの連携にはAPIを利用するのが一般的ですが、製品によっては希望するAPIが提供されていない、将来的に対応するというケースも発生します。そのため、マルチクラウド環境での連携を希望する企業はAPIに期待しすぎると、MKIのように思わぬ落とし穴に遭遇する場合もあるのです。(もちろん、お客様の構築をする際はこのようなことがないように事前に十分に機能検証をしていますのでご安心ください。)APIが利用できない部分をRPAで補うMKIの新基幹システムは、本番稼働を2020年4月に延期。しかしながら、世界中で猛威を奮っている感染症の影響を受けて再延期し、2020年8月14日付のプレスリリースの通り、MKIのS/4HANA CloudとSales Cloudを連携した新基幹システムは7月に稼働開始することができました!(パチパチ)

新基幹システムで変わったこと

7月初め、MKI社内では新基幹システム利用予定ユーザが本番稼働に備えて操作手順などの最終確認作業が通常業務と並行して行われていました。S/4HANA Cloudは旧基幹システムのSAP ERP6.0と操作画面が大きく変わらないため、入力作業では直感的に操作ができたとの感想がありました。しかし、出力操作に関してはS/4HANA Cloudへの移行時にデータ保管構造を変更したため、これまでの操作では思うようにデータの出力ができず、戸惑うことが多かったようです。MKIは本プロジェクトでFit to StandardをベースとしたBPR(Business Process Re-Engineering)を実施しました。この作業で業務プロセスの整理を行ったため、S/4HANA Cloud内のデータ保管構造が大きく変わりました。
MKIの旧基幹システム(SAP ERP6.0)ではすべてのデータが1つのキー(MKIではプロジェクトコード)に紐づき、このキーで1つのプロジェクトに関する情報を管理していました。しかし、新基幹システムではプロジェクトのビジネスモデル毎にデータの格納先が異なり、内容によってはデータの格納先が2つ以上に分かれます。イメージとしては、下図のように1つの本にすべての情報を記載し、すべて同じ本棚で管理する運用だったものが、本の内容によって本が分冊されて保管先の本棚も内容別に整理される運用になりました。


- データ保管の構成イメージ -

 

そのため、1つのプロジェクトの情報を得ようと思うと、まずそのプロジェクトのビジネスモデルを確認し、どの情報がどこに格納されているかを考え、格納先に情報を取得しに行く必要があります。Fit to Standardによるプロセスの標準化で業務の考え方がシンプルになるというイメージがあると思いますが、業務プロセスの整理により運用変更が伴うため、利用者には複雑な業務プロセスに見えるようです。そのため、利用者はデータ構造をしっかりと把握しておかなければデータの格納先へスムーズにたどり着けないようです。結果、ユーザ部門から届くS/4HANA Cloud関連の質問は、操作方法よりもデータの格納先を確認する方が多かったと聞きました。

一方のSales Cloudは操作に関しては、直感的に何を入力すればいいのかわかりやすいという声がありました。ただ、入力作業に慣れるまでは操作に時間がかかるだろうという感想もあり、すんなりと稼働開始から使えている訳ではなさそうです。また、本プロジェクトではこれまで営業部門毎に異なる管理手法で行っていた見積作成、フォーキャスト・受発注管理等をSales Cloudでの一括管理にしました。これにより、Sales Cloudに入力した内容が他のシステムに自動的に転記されるため、営業部門がS/4HANA Cloudを操作する機会はほぼなく、複数のツールを行き来して同じ内容を入力することもなくなりました。(これがMKIの目指した「シングルインプット/マルチアウトプット」です)また、リアルタイムで管理職も案件ごとの営業状況を確認できるため、管理職と非管理職間の情報共有にかかる工数が大幅に削減されることが期待されています。(なお、社内の営業状況がリアルタイムに可視化されることで、経営層がSales Cloudのダッシュボード画面に常駐しているという都市伝説が誕生してしまったことは内緒です(笑))

 

 - 新基幹システムの構成イメージ図 -

新基幹システムは歓迎されているのか

正直なところ、過去の移行で稼働開始に苦労した経緯から新基幹システムへの移行にはネガティブなイメージを持っていると思っていましたが、「新基幹システムをうまく使いこなすことでゆくゆくは業務が楽になるという雰囲気も感じている。」という声も多く、ポジティブな印象を受けました。また、社内システムがSaaSになったことで、常に最先端技術が業務に組み込まれることも期待されている理由の1つかと思います。とくにデジタルネイティブと呼ばれる若手・中堅社員は稼働開始直後の新基幹システムに慣れない状態に対して、「慣れるまでは仕方ない」と言いながら、前向きに使おうとしてくれているという話もありました。そんな前向きな空気感のおかげで、ベテラン層も試行錯誤しながら新基幹システムと向き合ってくれているようです。新基幹システムの導入は、いつまでも古いシステムにしがみついて、なかなか先に進めないというネガティブな要素を根本からなくすことができ、すべての世代が新しいことに挑戦しやすい風土醸成に一役買ってくれる可能性があります。(突然のプロジェクト参戦になったRPA担当も、新しいチャレンジに苦労したけどとても楽しかったそうです(笑))2020年は感染症の世界的大流行もあり、ニューノーマルに向けて多くの企業が自社システムを再検討するきっかけの年にもなっています。このコラムが企業を支える皆さんにとって、少しでも基幹システムをはじめとする自社システムを考える際の一助となれば嬉しいです。

 

さて、最終回となる第6回は新基幹システムの本番稼働について現場の生の声を交えながらお伝えしました。MKIの新基幹システム導入までの皆さまへの報告は一旦完了となりますが、今後も様々な機能を追加してパワーアップしながら、自社を実験マウスとしてナレッジを蓄積していきます!最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 【関連ページ】
クラウドの端から失礼します。 vol.01
クラウドの端から失礼します。 vol.02
クラウドの端から失礼します。 vol.03
クラウドの端から失礼します。 vol.04
クラウドの端から失礼します。 vol.05

執筆者

お問い合わせ

ページTOP
当ウェブサイトでは、サイトの利便性やサービスを改善するため、Cookieを使用しております。このまま当ウェブサイトをご利用になる場合、Cookieを使用することにご同意いただいたものとさせていただきます。Cookieに関する情報や設定については「個人情報保護方針」をご覧ください。 同意して閉じる