(本稿に先立って「量子コンピュータはなぜ速いのか?」をお読みいただくと理解が深まります。)
はじめに
量子コンピュータは「重ね合わせ状態」や「量子もつれ」といった量子力学の現象を利用して並列計算を行うコンピュータです。MKIナレッジでも過去の記事において、その原理、仕組み、活用可能性についてご紹介しています。
今回は、量子コンピュータの活用先として検討されている領域の中から、量子自然言語処理(Quantum Natural Language Processing : QNLP)を紹介したいと思います。
NLPってなんだろう?
本稿を執筆している2022年12月時点、巷では、ChatGPTが話題になっています。ChatGPTはAI企業であるOpenAIによって開発された非常に高機能なチャットボットです。現時点では無料で公開されていることもあり、その自然な応答を確かめられた方も多いのではないでしょうか。書き言葉や話し言葉などの自然文をコンピュータで処理する技術のことを自然言語処理(Natural Language Processing : NLP)と呼びます。ChatGPTはそのNLPの技術でできておりその根幹はDeep Learningのモデルです。近年の高性能なモデルは膨大な計算リソースを使用して大量のデータで学習されています。例えばChatGPTで使われているモデルの元となったGPT-3では、3,000億もの字句を含む大規模なデータセットを用いて1,750億個のパラメータを学習しています。(※1)
※1:Tom B. Brown, et al. “Language Models are Few-Shot Learners”, arXiv: 2005.14165, 2020
QNLPってなんだろう?
QNLPは量子コンピュータで行うNLPの研究分野です。NLPのモデルを学習するために必要な計算リソースがどんどん膨大になっている現在において、量子コンピュータの活用によって古典コンピュータでは再現不可能なNLPタスクが実行できることが期待されています。
QNLPでは量子コンピュータで文章を扱うために、文章を構文解析して量子回路に埋め込むという方法をとっています。この方法を用いて量子コンピュータによる自動対話、テキストマイニング、言語翻訳、テキスト読み上げ、言語生成、バイオインフォマティクスなどの、実社会におけるNLPタスクの実現を目指しています。
現在のところ、量子コンピュータは量子ビット数が少ない、誤り訂正ができていない、などのハードウェア的な問題が残っており、QNLPが現在のNLPを上回ることができるようになるのはいつになるかは現時点ではわかってはいません。しかしながら、実用に耐える量子コンピュータが開発された際に使用可能な強力なQNLPのアルゴリズムは求められており、世界中で研究が進められています。
QNLPを試すには
QNLPを実際に試せる手段として、λambeq(lambeq)というPythonライブラリがあります。λambeqは英国Quantinuum社が提供するオープンソースのQNLP用ソフトウェアツールキットです(Github :λambeq)。λambeqは前述した、自然言語の文章を量子回路に変換し、量子コンピュータで実行できる機能を提供しています。λambeqドキュメントにあるチュートリアルでは、文章を構文解析して量子回路に変換する例(図参照)や、文章を「IT」「食べ物」のどちらかに分類する簡単なモデルを学習して試すことができます。
また、文章を構文解析から図に変換してさらに量子回路に変換する例は以下のデモサイトで簡単に試すことができます。
- デモサイト
λambeqバージョン0.2.7から日本語への対応がサポートされましたので、ご興味のある方はぜひ試してみてはいかがでしょうか。このλambeqの日本語対応には当部の青木が貢献しています。(※2)

日本語化された構文解析結果の出力例

日本語文の量子回路出力例
最後に
量子コンピュータの実用化はまだ先ですが、実験的な利用を目的に、量子コンピュータ・メーカーやクラウドベンダー各社から、クラウドで利用可能な量子コンピュータが提供されています。さらに、今回ご紹介したλambeqをはじめ、量子コンピュータを活用するためのアプリケーション開発ツールや学習のためのドキュメント等も提供され、私たちが量子コンピュータを利用できる環境が徐々に整いつつあります。
三井情報では、量子コンピュータについて継続的に動向調査を行っています。私たちは量子コンピュータを用いて、お客様にどのような付加価値を提供していけるのか今後も追及していきたいと思います。
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林
R&D部 研究開発室
現在、量子コンピュータに関する研究開発、機械学習に関する社内教育に従事
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