
出典: Stoughton/NIST
今年のトピックといえば?
早いものでもう一年が終わろうとしています。2017年、皆さんの印象に残ったトピックは何でしたか?
サイエンスの世界でも毎年大きなトピックはいくつかあるのですが、10月22日にアメリカ国立標準技術研究所(NIST)より一つ大きな発表がありました。
自然界における基本的な4つの定数(プランク定数、ボルツマン定数、電子素量、アボガドロ定数)について、値が更新されるというものです。
皆さんは1kgの定義ってご存知でしょうか?
現在はフランスにあるkg原器という分銅の重さを1kgとして規定しています。3重の鍵がかかっている容器に保管されており、鍵は別々の管理者がもっているという、なんともダン・ブラウンの小説ネタにされそうな設定です。
この分銅のレプリカを各国に配布し基準として用いており、40年に一度このレプリカを各国からもちより原器と比較します。このタイミングで原器の洗浄を行うのですが前回の定期校正(1988-1992)の際にkg原器が以前と比べて50μg軽くなっていることが判明し、質量単位の不安定性が指摘されました。
実はSI基本単位(秒、メートル、キログラム、アンペア、ケルビン、モル、カンデラ)のうち唯一キログラムだけが人工物に依存した定義がなされています。人工物に頼ることは上記のような経年劣化の他、焼損や紛失のおそれもあり、普遍的な定義の必要性の検討は長くなされていました。
そして近年、質量分析器の高精度化や、創薬を中心とする生命科学周辺での精密質量への要求の高さから、2018年にSI基本単位の定義が見直されることとなりました(ケルビン、アンペア、キログラム、モル)。
それに先駆け、まずはその単位を規定するのに利用される4つの定数の更新をしたというのが冒頭の発表になるわけです。未だポンド・ヤードを使い続けるかの国からこの手の発表がなされるあたりはツッコミ所なのですが。
皆さんが実生活を送るうえでこの変更は大きな影響をもたらすものではありませんが(体重が数十μg増えるとかそんなぐらい?)、微小な生体内での様々な物質・現象を対象とする我々が得意とする分野では新たな展開が見られるかもしれません。
例えば、質量分析機では目に見えない体内に含まれるたんぱく質や代謝物を波形という形で測定することができます。大雑把にいってしまうと、含有されている物質の種類(重さ)に応じ波が立ち、波の高さによってその量比が決まります。
昨今の質量分析機は非常に精度が高く、物質のほんのわずかな差異も質量として分けることができますが、その基準としている重さに揺らぎが生じているのならば、測定結果間の差異を照合する際に本来同一の物質であるものを違うものとして認識していたり、またその逆で、同一の物質と思われていたものが、実際はほんのわずかに違う物質であったりしたかもしれません。その物質がクリティカルに病気などに紐づく要因であったりするかもしれません。
MKIでは質量分析機の解析ソフトウェアに関しては、十数年前から製薬会社と共同で開発に取り組んでいた経緯もあり、また現在もこれに関連したソフトウェアを世界最大のライフサイエンス機器メーカーであるサーモフィッシャーサイエンティフィック社を通じてグローバルに販売しているなど、非常に強みのある分野です。
来年、サイエンスの世界に訪れる一大イベントを契機に(重さの定義が変わるのは実に130年ぶり!)、新たな発見と科学の進展があることでしょう。そこに、MKIの強みを発揮し、いくばくかでも貢献していけることを期待しています。

牧口 大旭
ソリューションセンター ソリューション企画部 バイオメディカル室
製薬企業や大学の研究室などに向けITやデータサイエンスの活用を長年にわたり支援。
現在、バイオメディカル室の室長として案件全般を統括。
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