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薬の名前のヒミツ

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「商品名」と「一般名」

薬の歴史の始まりは紀元前数千年頃にさかのぼるそうです。それ以降、ワクチンや抗生物質等が登場し、現在、薬は我々にとってなくてはならないものとなっています。皆さんの周りでも、薬を飲んだことがない、という人はいないのではないでしょうか。

私も最近、ロキソニン®を使う機会がありました。インフルエンザの季節になるとタミフル®やリレンザ®、イナビル®といった薬の名前をよく耳にすると思います。このロキソニンやイナビルといった名前は製薬会社がつけた「商品名」と呼ばれるもので、広く知られている薬の名前となります。実は、薬にはこの商品名以外にも名前があります。例えば、イナビルにはラニナミビルオクタン酸エステル水和物という名前がついています。このラニナミビルオクタン酸エステル水和物は「一般名」と言い、これはWHO(世界保健機関)によって決定・命名され、世界共通名称として使用されるようです。一般名には舌を噛みそうな複雑な名前のものもありますので、製薬会社は分かりやすく印象に残る商品名をつけて販売しています。

名前から分かること

ヒュミラ®、アバスチン®、オプジーボ®という商品名で販売されている薬があります。一般名はそれぞれ、アダリムマブ(Adalimumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)で、全てマブで終わっています。マブ(-mab)はmonoclonal antibody(モノクローナル抗体)を意味しており、抗体医薬品※につけられる接尾語です。接尾語の前には抗体の起源を表す文字(-u-, -zu-)がつけられ、さらにその前には標的を表す言葉(-lim-, -ci-, -l-)がつけられます。接頭語は医薬品ごとに独自の文字(Ada-, Beva-, Nivo-)が付けられます。

※抗体医薬品:ヒトには病原体などの非自己由来のものやがん細胞などの異常細胞を認識して排除する免疫というシステムが備わっています。抗体医薬品とは免疫に関係する抗体を利用した医薬品のことを言います。

一般名 接頭語 標的を表す文字 起源を表す文字 接尾語
Ada-lim-u-mab Ada lim
免疫細胞関連
u
ヒト
mab
モノクロナール抗体
Beva-ci-zu-mab Beva ci
心臓血管関連
zu
ヒト化
mab
モノクローナル抗体
Nivo-l-u-mab Nivo l
免疫細胞関連
u
ヒト
mab
モノクローナル抗体

アダリムマブとニボルマブは両方、免疫細胞関連を標的としますが、標的を表す文字は「lim」と「l」で、違いがあります。これは旧命名法と新命名法の違いによるものです。
このように一般名を見ると、その薬の標的や、抗体の起源など、ある程度どのような薬かをイメージできると思います。

「ヒト化」とは

さて、先ほどの表で(-zu-)は抗体の起源がヒト化由来であることを表すとご紹介しましたが、では、起源がヒト化由来のものであるとは、一体どういうことでしょうか。抗体には、もちろんヒト以外の動物由来のものもあり、例えばマウスなら(-o-)がつけられます。免疫は非自己由来のものを排除しますが、他生物の抗体も例外ではなく、マウス由来の抗体はヒトにとっては異物ですので免疫システムが働く可能性があります。そこで免疫系から逃れるために、マウス抗体が働くための、必要最低限の部分(抗原決定部位など)をヒト由来の抗体のものに移植した抗体が作成されています。これを抗体のヒト化と呼び、出来上がった医薬品名には(-zu-)がつけられます。臨床利用されている抗体の約4割がヒト化抗体で、ヒト化の重要性が伺えます。

MKIのバイオサイエンス部では、IT技術とバイオインフォマティクス技術などを活用し、効率的なヒト化設計や抗体創薬支援を行なっています。また、抗体創薬だけでなく、従来の低分子創薬やDNA・RNAを利用した新しい核酸創薬に対しても幅広く貢献できる体制が整っています。常に最新の研究に目を向け、より良い薬を必要とする方に届けるために、今後も創薬研究・支援を続けていきます。

執筆者

崎山 則征
バイオサイエンス部バイオサイエンス室
現在、製薬企業に対する抗体創薬・核酸創薬の研究支援業務に従事

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