身近な香り
現代の私たちの日常生活には香りがあふれています。石鹸、シャンプー、洗剤、化粧品には様々な香りがつけられています。また、飲料や食料品にも香りが欠かせません。動物にとって香りは、食物を見つけたり身の危険を察知したりすることで、植物にとっては自ら香りを発して昆虫などを誘引し、花粉や種子を運ばせることで、自分自身の生存や種の繁栄に重要な要素であることは想像に難くありません。

人間の臭覚
私たち人間や他の生物は嗅覚により香りを感じることができますが、このメカニズムが科学的に解明されたのは比較的近年になってのことで、米・コロンビア大学のRichard Axel博士と米・フレッド・ハッチンソンがん研究所のLinda Buck博士が一連の研究のブレークスルーとなった嗅神経細胞に発現する受容体の遺伝子群を発見した功績により、2004年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。
ヒトには約400種類の嗅覚受容体が存在し、それぞれが空気中に漂う香り分子をファジー(低特異的)に認識します。ヒトの脳は、特定の香り分子に対する嗅覚受容体群全体の活性化パターン、つまり活性化した受容体の組み合わせを解析して、僅か数百種類の嗅覚受容体でも約一万種類の香り分子を嗅ぎ分けることができると言われています。
香りの研究
香りは単一の香り分子ではなく多種多様な揮発性分子の集合体であり、非常に多くの種類の分子 から成り立っています。例えば、コーヒーには約300種、リンゴには約 400 種、蜂蜜には約 650 種、牛肉には約 800 種の揮発性分子が存在することが知られています。このような自然界に存在する香りを科学的に再現する試みは、これまでに世界中で数多くなされてきましたが、未解明の微量成分が多数存在するため、本物の香りには到達できていません。
また、嗅覚は他の感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚)と異なり、香りの情報が大脳辺縁系の扁桃体や海馬といった本能行動や感情・記憶を司る部分に直接伝わるため、ストレスの緩和効果や認知症の予防効果についての研究もされているようです。
おわりに
最近、弊社に香りに関するお仕事の引き合いが増えています。弊社はこれまでに癌などの疾患に関連するマーカー探索などのデータ解析業務を数多く実施してきました。香りの成分の同定には主に質量分析機が使用されていますが、タンパク質や脂質の質量分析データの解析は弊社が最も得意とする分野の一つです。弊社がこれまでに蓄積したこれらの解析技術を応用することにより、将来このような香りの科学に貢献し私たちの生活をより快適で豊かなものにできるかもしれません。


二川 純也
バイオサイエンス部バイオサイエンス室
現在、質量分析データの解析業務や研究支援システム開発業務に従事
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