はじめに
SRE(Site Reliability Engineering)は、ソフトウエアエンジニアリングの考え方を、インフラや運用の分野に適用する学問分野です。SREを導入する目的は、サービスにおける開発速度と品質の向上です。
前回のコラムでは、SREの技術的・文化的要素の概要を紹介しました。今回は、その要素の中からトイルに焦点をあて、トイルの削減と自動化について紹介します。
トイルとは?
トイルとは、サービス提供に関係する作業のうち、自動化が可能であるけれども、手作業で繰り返し行われている作業を指します。トイルは、作業量がサービスの成長に比例するといった傾向を持つため、単純に作業を減らしたり省略したりことができません。以下にあげたトイルの代表例は、インフラや運用の業務に関わった方にはなじみがあるのではないでしょうか。
・同じ作業を何度も繰り返し行う
・手動によるデプロイまたはリリース
・手動による機器や部品のスタートおよびリセット
・手動によるデータの抽出作業
・手動によるITインフラストラクチャのスケーリング
組織においてトイルの作業が多い場合、サービスの進歩やリリース速度の低下により顧客に価値を提供する機会を逃してしまいます。また、手作業はミスが発生しやすく、修正に時間がかかることでサービス利用者へネガティブな影響を与えたり、サービスを維持するための過剰なコストが発生してしまいます。
組織内のトイルは、改善することができないところまで増加してしまうこともあるため、日々の業務で意識的にトイルに注意していく必要があります。
トイルの削減と自動化
トイルを減らすための方法は、対象の作業を自動化することです。自動化がもたらす効果として以下があげられます。
・一貫性(手作業よりも一貫性がある)
・再利用、スケーリング
・迅速なアクションと修正
・時間の節約
自動化を導入する際の流れとしては、解決すべき課題の特定と改善計画、適切なツールの選定、自動化の実装、成果のモニタリング(測定)となっています。このサイクルを回すことで、トイルを自動化していきます。
解決すべき課題の特定と改善計画として、一般的に取り上げられることの多い対象には以下があげられます。
・オペレーション品質の向上
・自動化により人的ミスを削減し、オペレーション品質を一定に保つ
・機能テストおよび非機能テストの自動化により手戻りとなるリスクを削減する
・システム運用の標準化
・自動化により無駄を排除し、業務の最適化および標準化を形成する
・環境(開発環境、ステージング環境、本番環境)の一貫性を保ち、依存性を低減することで自動化がし易くなる
・作業統制の強化
・オペレーションの自動化によりセキュリティの側面を強化する
・後工程で対応していた作業をシフトレフトし、かつ自動化することでサービスの問題や課題を早期に特定する
・オペレーション工数の削減
・ビルドおよびデプロイ作業を自動化する
・サービス運用の定型作業を自動化する
・スケーリングが容易なアーキテクチャを採用し、サービスのスケーリング作業を自動化する
自動化の代表的な手法として、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)、Infrastructure as Code(IaC)、DevOps/DevSecOpsがあります。これらの手法を用いて効果を得るためには、適切なツールを選定した上で実装する必要があります。効果のある自動化を実現することで、サービス品質を保ちつつサービスの継続的なリリースが可能になり、イノベーションや新機能の開発、更なる自動化についての時間を確保することができます。

CI/CDとDevSecOpsのアプローチ例
作業の自動化には、エンジニアリングの時間が必要です。自動化のために費やすエンジニアリングの時間と効果とのトレードオフになるため、すべての作業を一度に自動化することは難しいかもしれません。まずは現在の業務を把握して、ボトルネックとなっている個所や、自動化が容易な箇所からステップバイステップで取り組み、自動化による作業工数の変化や顧客へのサービス提供に要する時間をモニタリングしながら、自動化の手法を継続的に改善していくことが大切です。これら自動化の改善サイクルの実践は、サービス品質の向上や迅速なサービス提供にも寄与します。
最後に
今回は、SREで注目されているトイルの概要、その削減と自動化のアプローチを説明しました。MKIが取り組んでいるサービスインフラ研究開発では、トイルを含む、SREの概念を取り入れた検証および実践を行っています。次回は、SREの代表的な要素であるSLO/SLI/モニタリングについてご紹介したいと思います。

高橋
イノベーション推進部 第二技術室
サービスインフラに関する研究開発やITSMの社内教育に従事
三井情報グループは、三井情報グループと社会が共に持続的に成⻑するために、優先的に取り組む重要課題をマテリアリティとして特定します。本取組は、4つのマテリアリティの中でも特に「情報社会の『その先』をつくる」「ナレッジで豊かな明日(us&earth)をつくる」の実現に資する活動です。
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