はじめに
「量子コンピュータ」はとても難しい分野ですが、最近、一般メディア・記事でもよく目にするようになりました。量子コンピュータの実用化はまだ少し先のことになりそうですが、「次世代の高速計算機」として国内外で注目が高まっています。量子コンピュータが実用化されると、従来のコンピュータでは計算量の多さから解くことが難しかった問題を短時間で解けるようになると期待されています。
様々な分野でコンピューティング技術を活用しているMKIも、量子コンピュータの活用可能性について調査および検証を実施しています。今回のMKIナレッジでは、量子コンピュータについてお話しします。
量子コンピュータとは何か?
量子コンピュータを一言で表現すると、「量子の性質を利用して高速計算を実現するコンピュータ」です。
量子は、電子や陽子など物理学で出てくる様々な小さい単位の物質やエネルギーの総称を指し、「重ね合わせ」、「量子もつれ」と呼ばれる二つの性質(量子性)を持ちます。
量子コンピュータは、この性質を持つ情報の最小単位である「量子ビット」と呼ばれる素子を使って計算を行います。
量子ビットがもつ量子性について、従来のコンピュータの情報の最小単位である「ビット」と比較して説明します。
重ね合わせ
一つの量子ビットで複数の状態(情報)を維持することができる性質です。従来のコンピュータでは一つのビットで「0」または「1」の何れかの情報しか保持できませんが、量子ビットではこの性質を利用して、「0」と「1」の両方の情報を同時に保持することができます。
量子もつれ
複数の量子ビットの間に相互関係を持たせることができる性質です。従来のコンピュータのビットは、ある特定のビットの状態を変えても他のビットの状態に影響しませんが、量子ビットでは相互関係を持たせた一方の量子ビットの状態(0または1)を変えると、それと連動してもう一方の量子ビットの状態も変えることができます。
量子コンピュータの開発では、計算で必要な量子ビットの数を増やし、量子性を利用した計算方法(アルゴリズム)を取り入れることで、大量の情報を同時に処理可能な高速計算の実現を目指しています。
しかし、量子ビットの数の増やし方や計算過程における安定した量子性の維持は、量子コンピュータを実用化する上で大きな課題です。現在、世界中で解決に向けた研究開発が行われています。
量子コンピュータの方式
量子コンピュータは、問題の解き方(計算方法)が異なる二つの方式があります。
① 量子ゲート方式
問題を解くための手順を示すアルゴリズムを「量子ゲート回路」と呼ばれる演算を行うための回路の形式に変換して演算処理を行う方式です。
この方式は、理論的には汎用性があり様々な種類の問題が解けると期待されておりますが、量子コンピュータの開発と合わせて、問題を解くためのアルゴリズム開発も必要です。
②量子アニーリング方式
問題を「イジングモデル」と呼ばれる形式にして、組み合わせ最適化問題に特化した「アニーリング」と呼ばれるアルゴリズムを使って解を求める方式です。
アルゴリズムが固定ですので、解ける問題も組み合わせ問題に限定されます。
また、近年では、量子性や量子コンピュータの計算の仕組みから着想を得て、従来のコンピュータを使用して高速計算を実現する方式の研究開発も国内メーカーによって行われています。
活用可能な分野
量子コンピュータが実用化されると、大量データの分析・処理時間の削減や製品開発や各種作業プロセスの効率が大幅に改善される可能性があるため、様々な分野での活用が期待されています。
【活用例】
- 交通、物流
多数ある経路の選択肢から、量子コンピュータを使って最適な経路を計算し選択することで業務効率化や時間コストを削減。 - 材料開発や創薬
素材を構成する原子や分子の配置、構造などを求める複雑な計算に量子コンピュータを使うことで製品開発プロセスの時間短縮と効率化。 - 金融
金融商品の取引におけるリスク計算や商品価値予測シミュレーションにおいて、量子コンピュータを使ったリアルタイム分析。 - AI/機械学習
大量のデータを扱う学習プロセスに量子コンピュータを使うことで、学習時間やコンピュータの消費電力を削減。
おわりに~今後について~
量子コンピュータの実用化はまだ先ですが、実験的な利用を目的に、量子コンピュータ・メーカーやクラウドベンダー各社から、クラウドで利用可能な量子コンピュータが提供されています。さらに、量子コンピュータを活用するためのアプリケーション開発ツールや学習のためのドキュメント等も提供され、私達が量子コンピュータを利用できる環境が先行して整いつつあります。
MKIでは、量子コンピュータの動向を把握し調査、検証を行うと共に、量子コンピュータを使って、お客様のどのような問題や課題を解決できるか考えていきたいと思います。
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大貫 真
R&D部 研究開発室
現在、量子コンピュータ、ブロックチェーンに関する研究開発に従事
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