Vol.1 ファンエンゲージメント向上の為のデータ活用の課題
はじめに
いま、スポーツ業界全体でデジタルマーケティングに関する注目度が高まっています。
この記事をご覧いただいている皆様の中にも、クラブ内でデータを活用したマーケティング実行を担っている方やコンサルタントとしてクラブのマーケティングを支援している方が多いのではないかと思います。
スポーツ業界におけるデータ分析で利用するデータは、会員データ、チケット販売データ、グッズ購買データ等多岐にわたり、その性質からデータを上手く活用するには工夫が求められます。
今回のMKIナレッジでは、クラブはどうすればファンエンゲージメントの向上を収益の向上につなげられるのか、またその為にはデータをどのように活用していけばよいのかについて説明していきたいと思います。
※本コラム内では、特に断りのない限り「リーグ」はプロスポーツの競技団体や連盟を、「クラブ」はプロスポーツチームを指します。
クラブ経営者の、ファンデータを活用したデジタルマーケティングに対する期待
はじめに、スポーツ業界でのデータを活用したDX・デジタルマーケティングに関する期待とそれを取り巻く環境について振り返りたいと思います。
1つ目は、クラブによる公式SNSの運用の進化と発展です。
どのクラブも公式SNSには注力していると思います。海外クラブと比較しても遜色のないクリエイティブデザインのクラブもありますし、また、選手とクラブが一体になった情報発信も非常に多くなっています。どの公式SNSもクラブの特色が出ていて、見ていて全く飽きません。ここ最近、デザイナーと連携を深めた、また、デザイナーとして参加しているという方も多いのではないでしょうか?
2つ目は、リーグからクラブへの支援の強化です。
リーグがクラブに対してデジタルマーケティングツールの提供を開始したり、デジタルマーケティング人材育成の支援をするケースも増えてきていると思います。また、いくつかのクラブでは様々な展示会やセミナーでそうしたツールを使った成功事例の発表も活発になっています。
3つ目は、結果として扱えるデータボリュームが増えてきたことです。
会員データ、チケット販売データ、グッズ購買データに加えて、SNSのデータやリーグが提供するIDのデータ、クラブによっては有料サイトのデータも取り扱えるようになりました。そうしたこともあり、経営層からデータを活用してファンエンゲージメントを高めてほしい・既存のお客様の来場リピート回数をふやして欲しい・新規のお客様を獲得してほしいといった大きな期待を寄せられていると考えています。
デジタルマーケティングを進めるマーケティング担当者が直面する3つの課題
しかし、残念なことに、この分野のデータ分析についてはお悩みを抱えている方が非常に多いと思います。既に担当されている方は、データを眺めても効果的なマーケティング施策につなげることは難しいと感じている方も多いのではないでしょうか?
この原因については大きく以下の3つの理由が考えられます。
- 複数のデータベースがあるので、データを統合するのに時間とコストがかかる。
- スポーツイベントにおけるチケットデータには特殊性がある。
- 公式SNSとメルマガを中心とした情報発信になっている。
一つ目は、複数のデータベースがあるので、データ統合するのに時間とコストがかかることです。
会員データ(リーグID・クラブID)・チケット購買データ(クラブ・プレイガイド・リーグ等)・グッズデータ(ECと店舗等)と、クラブが取り扱えるデータボリュームが増えてきたこともあり、より深いインサイトを得るにはデータを統合して分析を進める必要が出てきました。一例として、下図のように統合データベースを作ろうとした場合、何を統合するためのキーとするのか?データを更新するタイミングはどうすればいいのか?データベースを運用するシステムベンダーが異なる場合は、だれが全体のマネジメントをするのか等を決める必要があります。
2つ目は、スポーツイベントにおけるチケットの特殊性です。
例えば、家族分のチケットを代表して購入するのはお父さん、友人分のチケットを代表して購入するのはクラブ会員の友達という購入形態も多いため、データだけを見ると一人で年間100枚以上チケットを購入している超熱烈サポーターを生み出します。また、地方のクラブの場合、就学や就業のタイミングでホーム観戦メインから大都市開催のアウェイゲーム観戦がメインとなるケースがあり、ホーム観戦回数が0回にも関わらず熱烈サポーターという方も出てきます。以上のような特殊性(データのノイズ)はデータ分析をする際に考慮しなければならない課題で、意識せずに分析してしまうと誤解を招く分析結果が生まれてしまいます。
3つ目は、マーケティング施策を実行するツールが、公式SNSとメルマガ中心になっているということです。
メルマガについては、データの統合作業ができること・チケットの特殊性を考慮した運用ができることの2点が求められます。公式SNSについては、サポーターの中でも閲覧している割合がまだまだ低いのが現状です。加えて、Twitterの場合、好きなクラブ以外(例えばアーティスト等)をフォローしているとクラブが発信した情報が埋もれやすくなってしまうという課題に直面します。
ファンエンゲージメントにデータを活用するためのアプローチ
上記の課題の中でも、特にデータ統合作業については、ITの専門家とマーケティングの専門家がクラブ内にいる場合でも時間と費用がかかります。実際に私もデータ統合作業を実施したことがありますが、かなり苦戦しました。そこで発想を転換し、新たにアプリを活用してファン・サポーターと繋がり、既存のデータではなく、そのアプリを使って「新たに生み出したデータ」を活用するアプローチに取り組みました。
データ統合して分析した結果と、このアプローチで分析した結果を比較したところ、得られるインサイトに大きな差はなく、クリーンなデータでデータ分析を行えることから分析にかかる労力も削減できることがわかりました。
また、アプリ開発は費用がかかるのではないのか?アプリをスタッフが運用できるのか?スタッフがコンテンツ作成にかかる負荷が増えるのではないのか?等の懸念の声もありましたが、サービスモデルでアプリを提供することでクラブが負担する費用を軽減、IT専門家ではないスタッフでも運用が行える管理画面を提供、既存コンテンツの利活用等の対応で解決できました。
現在、アプリを活用しているクラブは限られていますが、こうしたアプローチをクラブに採用頂くことで、デジタルマーケティング(特にデータ活用の部分)のスタッフ負荷を軽減しつつ、クラブがファン・サポーターへ提供する「魅力ある試合」というコンテンツをより伝えやすくなると考えています。
Vol.2では、アプリでファンとクラブを繋げてみて見えてきたものについてお伝えしていきます。(続く)
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久利生 大輔
デジタルトランスフォーメーションセンター 産業ソリューション営業部 第二営業室
電力・製造業とスポーツ分野でのデータを活用したDXプロジェクトを推進。
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