Vol.2 ファンエンゲージメントを高めるためのデータ分析〜スタジアム観戦推奨度要因分析〜
はじめに
ファンエンゲージメントを高めるために顧客データ分析等のデータ活用を推進する機運が高まっています。
特に、コロナ禍のこの3年間で、チケット購入のオペレーションや応援様式が大きく変わったことにより「スタジアムでわざわざ観戦しなくても良い」という気持ちが一部の既存ファンの中で浮かび上がってきていることを実感しているクラブ関係者の方も多いのではないでしょうか。こう感じる理由の一つに運営制限が解除されつつあるなかでもお客様が戻ってこないことがあると思います。私自身、スタジアムに足を運んでホームゴール裏で試合を観戦していますが、名前は知らないけどいつも大体同じ場所で応援していた人を見かけなくなったなと感じることが増えています。今回のMKIナレッジでは、スタジアム観戦に家族や友人を誘って来場してもらうための「スタジアム観戦推奨度要因分析」についてご説明します。
クラブ関係者が、データ分析結果の活用は難しいと感じてしまう理由
Vol.1 (ファンエンゲージメント向上の為のデータ活用の課題)でも触れましたが、チケット購入をお父さんが代表して家族分まで購入してしまう等、ファンデータの分析については考慮しなければならないことが多いです。こうしたファンデータの特徴を考慮せずに分析してしまうと誤解が生まれやすい結果や、クラブスタッフにとっては当たり前という内容を分析結果として提示されてしまったりします。具体的には以下のような分析結果を受け取ったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- 観戦者のメイン層は、40代〜50代の男性
- リピーターになってもらうためには、まずはタオルマフラーを購入してもらうのがよい。
- 観戦してもらいやすい人の説明変数として、郵便番号が上位に来る。

データ分析の観点では、実は、上記のいずれもデータからわかる事実です。しかし、既に対策をしている部分と重なることが多く、クラブスタッフがこのデータ分析結果を活用して何か次のアクションを取るのは難しいと感じてしまうことが多いかと思います。
データ活用のはじめの一歩 〜スタジアム観戦推奨度要因分析の活用〜
三井情報では、データ活用の初めの一歩として、次のアクションへつながる「スタジアム観戦推奨度要因分析」をクラブスタッフの方へお勧めしています。スタジアム観戦推奨度要因分析とは、ファンやサポーターの方がご家族やご友人を誘ってスタジアムに来場してもらうための影響度要因を分析することです。
スタジアム観戦推奨度要因分析では、ファン・サポーターの方のスタジアム観戦のカスタマージャーニーを作成し、項目ごとに「NPS®(※)への影響度」と「現状の評価」を可視化しています。NPS®への影響度と現状の評価のギャップに注目し、ファンエンゲージメントを高めるためにどの項目から対策をしていくかを検討していきます。三井情報では、サッカー・バスケ・ラグビーそれぞれのスポーツカテゴリーで、延べ約2万5千人のファン・サポーターの声を分析してきました。
(※)NPS®:ネット・プロモーター・スコア、顧客ロイヤリティを図る指標。NPSはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems, Inc)の登録商標です。
データ分析の方法については、下記イメージ図を用いて解説していきたいと思います。

まずは初めにNPS®への影響度が高い項目の上位3つ(赤枠部分)に注目します。
今回の例では、NPS®への影響度が高い順は、①演出・イベント、②先行入場、③飲食売店となっています。項目ごとに現状の評価との比較を行うとギャップを発見することができます。まずはこうした傾向のある項目から対策を検討していくことが重要です。もし、既に対策をしている場合には、その対策がきちんとファン・サポーターに伝わっているのか、また、その伝え方は適切だったのかを確認していきます。
続いて、現在取り組んでいる施策(青枠部分)に関する評価を確認します。今回の例では、アクセス(行き)、スタジアム環境、アクセス(帰り)、駐車場・車の4つについて施策を実施中とします。現状の評価がNPS®への影響度を上回っているアクセス(行き)については施策の効果があった等、施策実施結果のモニタリングとして活用していきます。
最後に、現状の評価が高く、NPS®への影響度が低い項目を確認していきます。今回の例では、マッチデープログラムと退場時が現状の評価が高く、NPS®への影響度が低いことがわかります。もしこの項目にクラブスタッフのリソースとコストをかけている場合は、十分な効果を得たと整理し、他の項目へリソースとコストを振り分けることで業務の効率化(クラブスタッフの負荷軽減)につながらないかを確認していきます。
ファンエンゲージメントを高めるための施策について、クラブスタッフの方には一度始めると止められない、他のクラブでの成功事例を自分のクラブでも実施したい、と感じる方も多いかと思います。そのためにも、定期的にデータを活用し、クラブスタッフの労力とコストをかけるべき部分を見直していくことが、効率的な運営業務を実現するための初めの一歩だと三井情報では考えています。
データ活用をするために知っておきたいこと
観戦推奨度の要因分析等を実施し、これからデータ活用を進めていこうと考えているクラブスタッフの方にぜひ知っておいて頂きたい3つのポイントをお伝えしたいと思います。
①来場回数が多い方と少ない方では観戦推奨度要因は異なる。
十分な量の回答者数が得られる場合、観戦推奨度要因分析を来場回数別で分析してみてください。来場回数別で分析した結果、共通の部分がある場合、そこが最も優先度が高い対策が必要となる事項である可能性が高いと言えます。また、自由回答で得られた結果と、観戦推奨度要因分析の結果を比較してみることも重要です。自由回答で得られた回答が必ずしも影響度の高い項目と関連していないこともあります。
②顧客満足度調査と併用する
試合ごとに顧客満足度調査を実施しているクラブスタッフの方もいらっしゃると思います。観戦推奨度要因分析結果から実施する企画を立案した場合、その項目のモニタリングに顧客満足度調査と観戦推奨度要員分析を併用することで効果検証がし易くなります。その際は、できるだけ具体的に「公共交通機関のご利用を促進するために、イベント広場のブースで○○キャンペーンを実施しました。あなたの評価を教えてください。」といった形でアンケート票を作成してみてください。
③NPS®値に注目する場合は、プラスにならないことがある。
NPS®値を指標として活用する場合、エンターテインメント施設との比較をしたくなる方もいらっしゃると思います。スポーツには勝敗があり自分が応援するクラブが必ず勝つとは限りません。また、応援様式がある程度定まっているため、回答者には毎回観戦するが他のファン・サポーターを誘って応援するということはあまりしないという人が一定数いるため、全体のNPS®値だけを見てしまうとマイナスになることも少なくはありません。
こうした特徴をあらかじめ知っておくことで、データを眺めた際に新たな気づきが生まれると思いますのでぜひ試してみてください。
まとめ
今回のMKIナレッジではファンエンゲージメントを高めるためのスタジアム観戦推奨度要因分析についてご説明しました。スタジアム観戦推奨度要因分析を実施し、観戦回数に応じたファン・サポーターの気持ちを知ることは観戦者数を増やしていくためには非常に重要だと考えています。また、顧客満足度調査と併用し、モニタリング・評価することで、実施施策を組み替えていく判断材料としても有効と考えています。コロナ禍の制限も徐々に解消されてきましたが、変化したファン・サポーターとの繋がりをアップデートする取り組みとしてご参考になれば幸いです。
最後に、クラブスタッフにそうしたデータ分析の専門家が不在というお悩みもあるクラブもいらっしゃるかと思いますので、三井情報では無料の簡易アセスメントを提供しています(無料提供期間は2023年3月末まで)。内容は、スタジアム観戦のカスタマージャーニーをベースとした約30問の質問でファン・サポーターの観戦影響度を分析します。
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久利生
DX・バイオ・ヘルスケア営業部 営業室
2017年から企業向けのDXプロジェクト支援を担当し、20件以上のプロジェクトに参画。
AIを活用した需要予測、電力分野での故障予兆検知等のIoT関連、メーカーの商品開発やマーケティングに関わるトレンド分析のプロジェクトを経験。
現在は、サッカー、バスケ、ラグビー等のプロスポーツクラブ向けのファンエンゲージメント支援等のスポーツDXや事業開発を担当。
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