はじめに
金融機関における融資業務、もしくは一般企業の与信の判定においても企業を評価する場合、これまでは決算書を利用して財務の分析および格付けなどの定量評価を行うのが一般的でした。
三井情報でも長年地域金融機関向けに決算書等に記載された情報をもとに財務分析を行うCASTERという製品を提供していますが、決算書の情報は入手しやすい反面、あくまでも過去のある時点でのその企業1社の状態をあらわすものであり、その企業がリアルタイムで直面している課題や、取引先・地域との関係性について、分析・把握が難しいという課題がありました。
昨今、コンピュータの進化によって膨大なデータが処理できるようになりました。さらに分析コストの低下によって、これまで分析対象外とされてきたデータが分析に利用されるようになり、以前は気づかなかった規則性や関連性まで見いだされるようになってきました。
しかし地域金融機関は、企業の評価に必要な情報の多くを電子データ以外の形で保持しており、そのままでは分析に利用できないという状況にありました。そこで三井情報は地方金融機関が旧来から持っている、あるデータに着目し、その内容を可視化する「CIVA(シーヴァ)」というソリューションの開発に至りました。
企業群を評価
ある企業を分析しようとしたとき、対象となる企業がどんな企業であれ、現実社会においてはその1社だけで仕事が完結することはなく、地域、グループ企業、仕入先・販売先の企業、地域金融機関などと密接に関わりあって仕事が成り立っていると思います。
そのため、本当にその企業の実態を見たいと思うのであれば、その1社の財務状況だけでなく、その企業を取り巻く環境についても調べる必要があり、これまでは関係者にヒアリングして丁寧に洗い出していく必要がありました。
(実際に企業にヒアリングを実施して取引先企業との商流図などを作成し、管理されている地域金融機関も多くあります。)
こういった企業間の関係性や商流の分析を行う場合、まず全体像をつくってそれを俯瞰し、必要な部分を切り取ってそこに所属する企業群の分析をするというのが理想です。
しかし、かけられる労力にも限界がある中、企業間の関係性をあらわした図を人手で作っていくのは困難であり、一部の企業の関係図は作成できても、全体を俯瞰することは難しく、結果的には個社毎に評価するしかありませんでした。
ただ、実はこれまで使われていなかった金融機関内のデータの中に、企業間の関係性の可視化に利用できるデータが存在していました。
ユーザである地域金融機関へのヒアリングを繰り返す中で、三井情報は、そこに着目していきました。
銀行口座のトランザクションデータ
そのデータとは、勘定系システムに残された銀行口座の取引履歴です。
銀行口座を利用した取引が行われると、ある企業から、ある企業へお金が移動したという取引履歴が残ります。その送り元となる企業と、送り先となる企業をつないで線にするという処理を、履歴があるだけ繰り返していくと、最終的にはその地域金融機関と取引のある企業同士のネットワーク図ができあがり、企業の関係性を一望することが可能となります。これにより企業間の意外な関係を発見する可能性もあるし、取引金額の多寡により、企業間の結びつきの強さを把握することもできます。

企業間の入出金情報から関係性を可視化
(円は個々の企業を、円を繋ぐ矢印はお金の動きを表す。円のサイズで資金量の多寡、矢印の向き・太さでお金の流れる向きと量を示す。)
このネットワーク図の中から必要な部分を切り出して、分析対象企業とその周りの関係を評価していくことで、分析対象企業1社だけでなく、商流そのものを評価したり、企業群を評価するという、これまでになかった新しい評価の軸をつくることができます。
さらにこのネットワーク図からは、企業間の関係だけでなく、企業と地域との関係性も見えてきます。
以前から「地方創生」が叫ばれていますが、地域の経済活動を活発化させるには、その地域に所属する企業の産業やサービスを発展させ、その企業のお金をその地域内で適切に流していくこと、地域内の需要と供給を最大限に活用して、大都市へのお金・人の流出を防ぐことが必要です。
「CIVA」のネットワーク図では企業を通したお金の流れを地図上に照らし合わせて可視化することで、自分たちを取り巻く地域のお金の流れを俯瞰することができます。
自分たちが所属する地域(県内、市内)から、どこ(県外、市外)にお金が出ていくのか、逆にどこから入ってくるのかを把握し、これまで気づかなかった地域の「強み」や「弱み」を直感的に理解できます。
地域の中で多数の企業とつながって影響力をもつ企業や、域外とのハブとなる企業を見つけ出したり、企業や地域の強みや弱みを把握し、そこを強化、改善して地域の活性化に役立てていくこともできるようになると考えています。
地域金融機関での利用
上記のように銀行口座の取引情報を利用することで、地域全体を俯瞰し、そこから有益な情報を見つけ出すことが「CIVA」の目的です。しかし、こういった膨大なデータを目の前にしたとき、何から手を付けていくべきか分からず、なかなか有益な情報が見つからないなど成果がだせないこともあるかもしれません。
そうした場合はまず手始めに、金融機関自らを中心とする現金の移動のネットワークを描くことで、金融機関用のマーケティングツールとして利用するところから始めることも可能です。
例えば顧客満足度や販促キャンペーンなど、従来はアンケート調査に頼っていた効果測定も、ネットワーク図を時系列で変化させることで例えば以下の様な様々な事象が浮かび上がってきます。
- ある一定の期間で他行へどんどん現金が移動している
- キャンペーンの結果、自行への現金の流入が増えている
従来のようなアンケート結果では、実際の効果が分かりにくい場合もありますが、現金の移動を可視化すれば、他行から自行にお金が流入しているのか、自行から他行にお金が流出しているのかを一目で把握できます。

一定期間の、地域間の入出金の流れを可視化
また、この地域間の資金の移動と地域の地図を重ね合わせると、自行が他行と比べどの地域へ強みがあるのか、どこの地域に弱いのかが浮かび上がってくるので、競合する地域金融機関に対し、次に取るべき行動も見えてきます。
地方創生への活用
先に企業間のネットワーク図と書きましたが、この図はその企業、地域の生み出すモノ、サービスが、どこでどのようにつながって消費されたのかと置き換えて読むことも出来ます。
時系列で変化させると、どのようにそのモノ、サービスの取引が変化しているかが分かり、これから地域内で大きな影響力がでそうなモノやサービスを持っている企業、域外と域内のハブになりそうなモノやサービスを持っている企業の発掘にも役立つと思われます。

一定期間に入出金があった企業を地域ごとに可視化
こうしたデータを基に地域金融機関は融資と言う手段を用いてその企業を後押しすることができます。それはその地域で今後収益を生み出していけそうなモノ、サービスに注力するということであり、その地域を盛り上げていくことにつながっていくと考えられます。
最初は小さな範囲かもしれませんが、徐々に広げていくことで、最終的には地方創生につながっていくことが期待されます。
今後の展望
ここまで銀行口座の取引データが使用できる前提でお話ししてきましたが、仮に使えない場合には、決算書に付属している勘定科目明細の、売掛金/買掛金明細などからネットワーク図を描くことができます。2つの関係性さえ表していれば、それ以外のデータにも対応可能です。
また、一言でネットワーク図と言っていますが、実際に目にすると膨大なもので、到底すべてを人間だけで把握するのは難しいと認識しています。
しかし昨今、機械学習の技術も利用できるようになり、こういった膨大なデータも一旦ネットワーク図に落とし込んでしまえばそこから特定の要素を抽出する作業はAIに任せることができるようになってきました。
ポジティブ/ネガティブと言った判定に必要な要素を付け加え、導きたい結果のパターンを学習させておけば、銀行口座の取引データが更新されるだけでこれから伸びる企業、倒産しそうな企業などの予測、また販路の拡大のために新しく取引を始めるべき企業など、探したい項目に沿ってAIが瞬時にネットワーク図を評価し、候補となる企業を示してくれるような未来もくるかもしれません。
三井情報では今後の展開として、CIVAと当社が培ってきたAIの技術を組み合わせ、人間がこれまで気づかなかった事象をネットワーク図から導き出し、地域の活性化につなげる方法を導き出すツールとしていけるよう研究を進めていきます。
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中川 直哉
金融ソリューション部 第一技術室
地域金融機関向けソリューションの企画、開発に従事。
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